千里の行も足下に始まる。
老子に由来する有名な言葉です。
どれほど長い旅であっても、始まりは足元から踏み出す一歩にあります。
これは投資にもよく当てはまる言葉ではないでしょうか。
本を読む。
株価を見る。
ニュースを見る。
決算を勉強する。
それらももちろん大切です。
しかし予は、株式投資について本当に多くのことを教えてくれたのは、
実際に自分のお金で一銘柄を買ったこと
だったと思っています。
株は買って初めて「自分のこと」になる
株を持っていない時、株価はただの数字です。
ニュースで、
「○○株が5%上昇」
と言われても、どこか他人事です。
ところが自分で株を買った瞬間、それが変わります。
昨日より5円上がった。
今日は10円下がった。
決算が出た。
新しい商品が発表された。
社長が何か言った。
政府が制度を変えた。
それまでなら読み飛ばしていたニュースを、自分から読むようになります。
なぜなら、自分のお金がそこにあるからです。
そして不思議なもので、株を持っていると企業にも少しずつ愛着が湧いてきます。
良いところも見えてくる。
悪いところも見えてくる。
市場がその会社をどう評価しているのかも気になる。
一銘柄を持っただけなのに、そこから経済、政治、金利、為替、業界構造へと興味が広がっていく。
予は、投資の勉強というものは、こうして始まる部分がかなり大きいと思っています。
予の最初の一歩は東京電力だった
予が最初に株式投資へ踏み出した時、選んだのは東京電力でした。
東日本大震災の後です。
福島第一原子力発電所事故によって東京電力の株価は大きく下落し、それまでの株価から考えれば冗談のような水準まで落ちていました。
もちろん会社は大変な状況です。
原発事故。
巨額の賠償。
廃炉。
電力供給。
政治問題。
とても普通の優良企業として買える状態ではありませんでした。
しかし予は考えました。
国は東京電力を本当に潰すのだろうか。
首都圏の電力供給を担う巨大企業です。
社会インフラとして必要不可欠です。
どうやら国も支える方向らしい。
ならば、
潰れないのであれば、いつか株価もある程度戻るのではないか。
そう考えました。
そして株価そのものも非常に安く見えた。
投資の勉強代として買ってみるにはちょうどよい。
そう思って証券口座を開き、東京電力株を買いました。
これが予の一歩目です。
そして、いきなり勝ってしまった
ところが。
買った後、東京電力株は激しく上昇しました。
連日のように株価が跳ね上がっていく。
初心者だった予からすれば、
「株とはこんなに儲かるものなのか」
となります。
そりゃあ有頂天にもなります。
自分なりに考えて買った。
そして実際に上がった。
これは気持ちがいい。
自分には株の才能があるのではないか。
そんな気分にもなります。
今振り返れば、これが一つの罠だったのでしょう。
初めて買った株で、いきなり良い思いをしてしまった。
予が値動きの激しい株を初心者へ安易に勧めない理由の一つも、ここにあります。
最初に勝つことは、必ずしも良いことばかりではありません。
一度見た夢は、人を縛る
その後、東京電力株は順調に上がり続けたわけではありませんでした。
上がったかと思えば下がる。
また上がる。
期待が集まる。
そしてまた落ちる。
長い年月、それを繰り返します。
しかも東京電力には配当がありません。
普通にファンダメンタルズを見るなら、長期保有に向いていると言いにくい株です。
業績にも巨大な不確実性がある。
原発再稼働もある。
廃炉問題もある。
賠償もある。
政策にも大きく左右される。
それでも予は持ち続けました。
なぜか。
一度、大きく上昇する姿を見てしまったからです。
「まだ上がるのではないか。」
原発が再稼働すれば。
復配すれば。
環境が変われば。
いつかまた。
そう思う。
実際、東京電力は時折ものすごい勢いで上昇します。
すると、
「ほら、やはり来た」
と思う。
しかし、その後また値を下げる。
期待。
上昇。
欲。
下落。
落胆。
そして再び期待する。
長い道でした。
気がつけば、勉強代では済まなくなっていた
最初は勉強代のつもりでした。
しかし長く相場にいるうちに、投じる金額も大きくなります。
もう笑って済ませられるような額ではなくなっていきました。
そこから予は、嫌でも株を勉強することになります。
決算を見る。
ニュースを見る。
政策を見る。
原発を見る。
電力需給を見る。
市場心理を見る。
出来高を見る。
上昇した時の欲を知る。
下落した時の恐怖を知る。
売る難しさを知る。
待つ苦しさを知る。
そして、
「最高値ですべて売ろう」などという欲が、どれほど人間の判断を狂わせるか
も知りました。
予の投資知識のかなりの部分は、東京電力という銘柄に長年付き合う中で身についたものです。
授業料は、ずいぶん高くつきましたがの。
成功も失敗も、歩いたから得られた
しかし予は、東京電力を買ったことそのものを後悔してはいません。
良い思いもしました。
つらい思いもしました。
欲に目が曇ったこともあります。
売るべきところで売れなかったこともあります。
期待にしがみついたこともあります。
しかし、そのすべてが今の予の投資観につながっています。
もしあの日、
「もっと勉強してからにしよう」
「まだ怖いからやめておこう」
と、いつまでも証券口座すら開かなかったら。
今の予はなかったでしょう。
知識だけなら本から得られます。
しかし、
自分の金が増える喜び。
自分の金が減る恐怖。
売った後にさらに上がる悔しさ。
暴落しても持ち続ける苦しさ。
これは実際に市場へ入らなければ分かりません。
一歩目は小さくてよい
だからといって、最初から大金を投入する必要はありません。
むしろ予は勧めません。
一株でもよい。
百株でもよい。
自分にとって負担にならない額でよい。
まず市場へ足を置いてみる。
すると、それまで見えなかったものが見えてきます。
そして、自分自身のことも見えてきます。
自分は下落に弱いのか。
上昇すると欲が出るのか。
配当が入る方が安心できるのか。
値上がり益を狙う方が楽しいのか。
退屈な株を持ち続けられるのか。
激しい値動きに耐えられるのか。
買った銘柄は、おぬし自身じゃ。
どんな株を選び、どんな時に不安になり、どんな時に欲を出すのか。
株式市場は、ときに自分自身を映す水面にもなります。
千里の行も足下に始まる
投資を始める前から、
「完璧な投資家になってから株を買おう」
などと思う必要はありません。
そんな日は永遠に来ません。
予とて、今でも間違えます。
未来の株価など分かりません。
しかし、最初の一歩を踏み出せば、そこから道が生まれます。
予の場合、その一歩が東京電力でした。
ずいぶん険しい道を選んだものです。
しかし、あの一歩から今日まで道は続いています。
中国では「道」を**道(タオ)**とも読みます。
人それぞれ歩く道は違います。
高配当株を歩む者もいる。
成長株を歩む者もいる。
インデックス投資を歩む者もいる。
短期売買を選ぶ者もいるでしょう。
予の歩いた道を、そなたがそのまま歩く必要はありません。
予には予の道がある。
そなたには、そなたの道がある。
ただし、どの道を歩くにしても。
最初の一歩だけは、自分で踏み出さなければなりません。
子曰く――
千里の行も足下に始まる。
予の長い投資の道も、震災後に東京電力株を買った、その一歩から始まりました。
良きこともあった。
苦しきこともあった。
欲に溺れたこともあった。
迷ったこともあった。
されど、そのすべてが予の歩いてきた道じゃ。
予の道を歩む必要はない。
皆、それぞれの道を歩め。
千里の彼方を眺めておるだけでは、いつまで経ってもそこへは辿り着かぬ。
まずは足下から、一歩じゃ。
ふぉっふぉっふぉっふぉっ。
※本記事は筆者自身の投資経験および投資に対する考え方をまとめたものであり、東京電力ホールディングスその他の特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資には元本割れの可能性があります。投資判断はご自身で行ってください。
