2026年10月5日月曜日

タイムズカー660万件情報漏えい、集団訴訟は?対象者・メール通知・レンタカーや駐車場利用者への影響を整理

 

パーク24グループのカーシェアサービス「タイムズカー」で、大規模な個人情報漏えいが発生しました。

2026年9月25日にタイムズカーWebシステムへの不正アクセスが検知され、その後の調査で約660万アカウント分の情報が第三者に取得されたことが確認されています。さらに、そのうち約160万アカウントでは、運転免許証画像などの本人確認書類まで漏えいしていたことが明らかになりました。

件数の大きさだけでもかなりのものですが、今回やや分かりにくいのが「昔使っていた人も対象なのか」「タイムズパーキングやレンタカーだけを使った人はどうなのか」「メールが来ていなければ安心していいのか」という部分です。

さらに10月に入ると、被害者による集団訴訟の動きまで急速に拡大しています。今回は、現時点で分かっている情報を一度整理してみます。

約660万アカウントの情報が漏えい

パーク24の発表によると、2026年9月25日9時07分、タイムズカーWebシステムへの外部からの不正アクセスを検知しました。翌26日7時25分までには、不正アクセス経路と攻撃元からの通信を遮断し、その後、新たな不正アクセスは確認されていないとしています。

その後の調査で、第三者に取得されたことが確認されたアカウントは約660万件に上りました。

漏えいした情報は対象者によって異なりますが、公式発表では次のような情報が挙げられています。

  • 氏名
  • 住所
  • 生年月日
  • 電話番号
  • メールアドレス
  • 運転免許情報
  • 本人確認書類情報
  • パスワード
  • 連携サービスID
  • 法人会員の場合は所属部署名

パスワードについては復元できない形式で保存されていたとされ、クレジットカード情報については漏えいしていないことが確認されています。

また、現時点では今回漏えいした情報が不特定多数に公開された事実や、今回の事件に起因する個人情報の不正利用も確認されていないと会社側は説明しています。

約160万件では免許証画像なども漏えい

さらに9月29日、パーク24は本人確認書類について追加発表を行いました。

運転免許証画像などの本人確認書類が漏えいしたアカウントは約160万件。

確認されている本人確認書類は、運転免許証画像だけではありません。

  • 運転免許証画像
  • 現住所確認書類の画像
  • 学生証画像
  • 家族確認書類画像

といったものが含まれます。

氏名やメールアドレスの漏えいだけでも気持ちのよい話ではありませんが、運転免許証などの本人確認書類は簡単に変更できる情報ではありません。この約160万件が、今回の事件をかなり大きなものにしている部分でしょう。

昔退会した人も対象になる

今回注意したいのが、「もう会員ではないから関係ない」とは限らない点です。

公式発表で対象とされているのは、現在のタイムズカー会員だけではありません。

  • 現在のタイムズカー会員
  • 退会済みのタイムズカー会員
  • 入会を申し込んだものの、何らかの理由で入会完了しなかった人
  • タイムズビジネスサービスの現在の会員
  • タイムズビジネスサービスの退会済み会員

つまり、「昔登録したような気がするが、実際に使ったか覚えていない」という人まで対象になる可能性があります。

特に気になるのが、入会未完了者まで対象に含まれていることです。会員としてサービスを利用した記憶がない人でも、過去に申込フォームへ情報を入力していれば無関係とは言い切れません。

タイムズパーキングだけ使った人は対象なのか?

パーク24というと、黄色い看板の「タイムズパーキング」を思い浮かべる人も多いでしょう。

今回不正アクセスを受けたと公表されているのはタイムズカーWebシステムです。

公式発表で漏えい対象として明示されているのは、タイムズカー会員等とタイムズビジネスサービス会員等です。

そのため、単にタイムズパーキングへ車を停め、精算機で料金を払っただけの人が今回の約660万件に含まれる、という発表にはなっていません。

一方で、パーク24には複数のサービスがあります。

「タイムズクラブ」は、タイムズパーキング、タイムズカー、タイムズカーレンタルなどで利用できる共通の会員サービスです。また法人向けのタイムズビジネスサービスは、1枚のカードで駐車場、カーシェア、レンタカーを利用できる仕組みになっています。

そのため、「駐車場を使ったことがある」というだけでは判断できず、過去にどの会員サービスへ登録したかがポイントになります。

タイムズカーレンタルだけ使った人は?

レンタカーについても同じです。

タイムズカーレンタルはパーク24グループのサービスですが、レンタカーを一度利用した人全員が今回の漏えい対象だとする公式発表はありません。

一方、タイムズクラブやタイムズビジネスサービスなどを通じて、カーシェア、レンタカー、駐車場のサービスがつながっている部分があります。

昔レンタカーを使った際に同時に会員登録した、法人カードを作った、カーシェアの申込みも行った、といった記憶がある場合には、一度確認しておく意味はありそうです。

「メールが来ていない=漏えいしていない」と考えていいのか

ここは少し注意が必要です。

9月29日の発表では、本人確認書類の漏えいが確認された約160万アカウントについて、同日からメールによる個別案内を開始したとしています。

さらに約660万件全体についても、会社は対象者へ順次個別に案内するとしています。

つまり、本人確認書類について通知メールが届いていないことは一つの判断材料にはなりますが、「メールがないから100%対象外」とまでは現時点では言い切れません。

会社側も、個々の会員について具体的にどの情報が漏えいしたかについては、外部専門機関による調査結果を踏まえて改めて案内するとしています。

迷惑メールフォルダへ入っている可能性や、昔登録したメールアドレスを現在使っていない可能性もあります。

昔タイムズカーへ登録した記憶がある人は、「メールが来ていないから終わり」と考えるより、公式発表をもう少し追っておいた方がよさそうです。

集団訴訟はすでに参加希望3万人超

今回の事件では、被害者による集団訴訟の動きも始まっています。

牧野法律事務所が専用サイトを開設し、損害賠償請求を検討する人を募集しています。

10月1日時点では約3,000人弱だった参加希望登録者は、その後急増し、10月4日時点で3万人を超えたと報じられています。

かなり大きな人数ですが、現時点で注意したいのは、これはまだ正式な原告数ではないということです。

専用サイトへの登録は、あくまで「参加意思の表明」です。

今後、費用や委任条件などの案内を受け、委任書類を提出した段階で弁護士との正式な契約となります。法律事務所側も、会社の情報管理状況などを確認した上で、実際に提訴するかを判断するとしています。

つまり2026年10月5日現在は、集団訴訟がすでに判決へ向かって進行している段階ではなく、大規模な原告候補が集まっている段階と見るのが正確でしょう。

参加すると、いくら賠償を受けられるのか?

ここが最も気になる人も多いと思います。

現時点では、今回のタイムズカー事件について「参加すれば○万円もらえる」といった金額は決まっていません。

法律事務所側も、1人あたりの想定認容額については検討中としています。費用についても後日案内するとされており、現在は未確定です。

参考になるのが、過去の個人情報漏えい事件です。

過去の事例 裁判で認められた金額の例
通信教育会社の顧客情報漏えい 1人あたり2,000~3,000円程度の判断例
インターネット接続サービスの顧客情報漏えい 5,000円+弁護士費用相当額など
住民基本台帳データの漏えい 1万円+弁護士費用相当額など
身体的特徴などを含む顧客情報漏えい 3万円+弁護士費用相当額など

例えばベネッセの情報漏えい事件では、裁判によって1人あたり2,000円や3,000円程度の慰謝料を認めた例があります。

またYahoo! BBの顧客情報漏えい事件では、裁判所が1人あたり6,000円の支払いを命じた例もあります。

こうして見ると、日本の個人情報漏えい訴訟では、実際の金銭的被害が確認されていない場合、認められる慰謝料がかなり小額にとどまる例も多いことが分かります。

今回も数千円程度で終わるのか?

そこはまだ分かりません。

今回のタイムズカー事件では、約160万件で運転免許証画像など本人確認書類そのものが漏えいしています。

集団訴訟を呼び掛けている弁護士も、免許証番号や本人確認書類画像のように保護の必要性が高い情報が漏えいしたことは、損害額を考える上で大きな要素になるとの見方を示しています。

氏名と住所だけが漏れた事件と、運転免許証画像そのものが漏れた事件では、同じ基準になるとは限りません。

一方で、実際に裁判所がいくら認めるかは別問題です。過去の裁判例から単純に「今回は数万円になる」と計算することもできません。

さらに弁護士費用なども未定なので、最終的に参加者の手元へいくら残るのかも現時点では分かりません。

集団訴訟については、参加人数の大きさだけでなく、今後発表される請求額、費用体系、会社側の対応、実際の提訴内容を見ていく必要がありそうです。

パーク24の事業への影響はタイムズカーだけで終わるのか

今回不正アクセスを受けたのはタイムズカーWebシステムですが、パーク24はカーシェアだけの会社ではありません。

グループでは「タイムズパーキング」の時間貸駐車場を全国展開し、カーシェアのタイムズカー、タイムズカーレンタル、法人向け会員サービスなどを組み合わせています。

特にタイムズカーは、タイムズパーキングに車両を配置できることが大きな強みとなってきました。駐車場事業とモビリティ事業がかなり近いところでつながっています。

このため、今後見るべきなのは、情報漏えいの対象システムだけではありません。

  • タイムズカーの会員数がどう動くか
  • 新規会員登録に影響が出るか
  • カーシェア利用回数が減少するか
  • レンタカー利用にもブランドイメージの影響が出るか
  • タイムズパーキングを含む「タイムズ」ブランド全体へ波及するか
  • セキュリティ対策費用がどの程度増えるか
  • 訴訟や補償による費用がどの程度発生するか

現在、パーク24は各種サービスを通常どおり継続しており、今回の事件によるサービス提供への影響は確認されていないとしています。

一方で、顧客の心理的な反応が実際の利用数字へ表れるには時間がかかる場合があります。

今回の事件がタイムズカーだけの問題として収まるのか、それともグループ全体のブランドへ少しずつ影響していくのか。その答えは今後の月次や決算数字に現れてくることになりそうです。

今回の事件で確認しておきたいこと

昔タイムズ関連サービスを利用した記憶がある人は、次の点を一度整理しておくと分かりやすいでしょう。

  • タイムズカーへ登録したことがあるか
  • 入会申込みだけして、途中でやめたことがないか
  • 昔退会したタイムズカー会員ではないか
  • タイムズビジネスサービスへ登録したことがないか
  • 登録当時のメールアドレスを現在も確認できるか
  • パーク24から個別通知が届いていないか

単に駐車場へ車を停めたことがあるだけなら、今回の公式発表上の対象者とは別です。

一方、昔カーシェアへ登録した記憶が曖昧な人や、入会申込みだけ行った可能性がある人については、もう少し続報を確認しておいた方がよいでしょう。

易に問う

最後に、玄庵易占で今回のパーク24を占ってみました。

本卦は「雷風恒(らいふうこう)」。

第三爻・第四爻が変じ、之卦は「地水師(ちすいし)」。

さて、会社も訴訟もどう進むか。

見ものじゃな。

ふぉっふぉっふぉっ。


※本記事は2026年10月5日時点で公表されているパーク24公式発表、報道、集団訴訟募集サイト、公開裁判例などをもとに整理しています。調査・訴訟はいずれも進行中のため、今後内容が変更される可能性があります。

※本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

2026年9月29日火曜日

ディア・ライフとムゲンエステートを比較 高配当不動産株は「水が流れているか」を見よ

高配当株を探していると、不動産会社がよく目に入ります。

PERは低い。配当利回りは高い。数字だけ眺めていると、「これは安いのではないか」と思えてくる会社も少なくありません。

今回は、その中からディア・ライフ(3245)とムゲンエステート(3299)を眺めてみます。

どちらが上かを決めるつもりはありません。むしろ今回考えたいのは、不動産株は何を見ればよいのかということです。

ふぉっふぉっふぉっ。

まず現在の数字を並べてみる

2026年9月28日終値を基準にすると、ディア・ライフは1,030円、ムゲンエステートは1,748円でした。

項目 ディア・ライフ ムゲンエステート
株価 1,030円 1,748円
予想PER 約12.1倍 約8.6倍
PBR 約1.52倍 約1.16倍
年間配当 64円目標 130円予想
概算配当利回り 約6.2% 約7.4%

こうして見ると、現在の数字ではムゲンエステートの方がPER、PBRとも低く、配当利回りも高く見えます。

これだけなら話は簡単です。

しかし不動産会社を見る時には、ここでもう一枚めくってみたくなります。

不動産会社の自己資本比率は少し見方が違う

一般的な企業分析では、自己資本比率が高い会社ほど財務が安定していると考えます。それ自体は間違っていません。

されど不動産会社の場合、借入そのものが商売の一部でもあります。

銀行などから資金を調達する。物件を仕入れる。付加価値を付ける。そして売却する。

この循環によって利益を作る会社に「借金をするな」と言ってしまえば、商売そのものが成り立ちにくくなります。

ゆえに、不動産会社の自己資本比率だけを製造業などと同じ感覚で比べても、少し景色が違って見えることがあります。

ムゲンエステート自身も中期経営計画で、自己資本比率30~35%を重要KPIとして設定しています。2025年12月期実績は33.5%でした。

つまり、会社自身が一定のレバレッジを使うことを前提として経営しているわけです。

では何を見るのか。

予なら、借入の向こう側を見ます。

借金をして「何を買ったのか」

不動産会社の借入が増えた時、同時に販売用不動産も増えていることがあります。

販売用不動産とは、乱暴に言えばこれから売るための商品です。

八百屋なら野菜、家電量販店ならテレビ、不動産会社なら建物や土地です。

商品を増やすために借金が増えたのであれば、それだけを見て直ちに悪いとは言いにくい。

むしろ問題になるのは、その次です。

それは、ちゃんと売れているのか。

ディア・ライフは現在かなり仕入れている

ディア・ライフは近年、収益不動産の取得をかなり積極化しています。

2026年に入ってからも、公式IRには収益不動産やマンション開発用地などの取得情報が何度も並んでいます。

2025年9月末には約121.8億円だった販売用不動産は、2026年3月末には約398.8億円まで増えました。仕掛販売用不動産も約46億円から約55億円へ増加しています。

それに伴って借入も増え、自己資本比率は2025年9月末の59.3%から、2026年3月末には47.8%へ低下しました。

数字だけ見れば、会社がかなり大きく網を張っていることが分かります。

これは悪いのでしょうか。

まだ、それだけでは分かりません。

そして9月、面白いことが起きた

2026年9月24日、ディア・ライフは2026年9月期の業績目標を修正しました。

経常利益目標は従来の100億円から約61.2億円へ。前期の約78.3億円を下回る見込みとなりました。

ここだけを見ると、かなり大きな下方修正です。

ところが、その理由を読むと今回のテーマそのものが出てきます。

会社によれば、複数案件の売却時期が当期末以降へずれ込んだとのこと。

物件を仕入れた。

されど、予定していた時期には売れなかった。

これが不動産会社を見る時の難しさです。

売却自体が消えたとは限りません。来期へずれただけなら、いずれ利益として出てくるかもしれない。

しかし、その「かもしれない」を確認するために、次の決算を見なければならなくなります。

水は流れているうちは澄む

水は流れているうちは澄んでいる。

一か所に停滞した水は、やがて淀み、腐る。

不動産会社も、少し似ているのかもしれません。

資金を借りる。

物件を買う。

売る。

利益を得る。

借入を返し、また次の物件へ資金を流す。

この水が流れている間はよい。

むしろ借入を上手に使うことで、大きな利益を生み出すこともできます。

されど、物件だけが増える。借入も増える。そして売却が鈍る。

そうなると、水は少しずつ一か所へ溜まり始めます。

ゆえに予なら、不動産株を見る時には「いくら買ったか」以上に「買ったものがどれだけ売れたか」を見ておきます。

営業キャッシュフローがマイナスでも即座に怖がらない

ここでもう一つ、不動産会社で面白い数字があります。

営業キャッシュフローです。

ディア・ライフの2026年3月までの半年間では、営業キャッシュフローが約276.6億円のマイナスになっています。

普通の会社なら、かなり驚く数字でしょう。

しかし、この大きな要因が販売用不動産など棚卸資産の増加です。

つまり、現金が消えてしまったというより、現金を大量の「売るための不動産」へ変えた状態です。

前年の2025年9月期通期では、反対に営業キャッシュフローは約141.4億円のプラスでした。

不動産が売れれば、在庫が減って現金が戻ってくる。

買えばキャッシュフローが悪化し、売れば改善する。

ここでも水は行ったり来たりします。

ではムゲンエステートはどうか

ムゲンエステートの主力は中古不動産の買取再販です。

物件を買い取り、必要に応じてリフォームや価値向上を行い、再び市場へ戻す。

こちらも非常に分かりやすく「仕入れて売る」商売です。

2025年12月期は売上高682億円、営業利益110億円、経常利益99.5億円、純利益66.6億円でした。

2026年12月期については売上高約616億円、営業利益約85.9億円、純利益約47.7億円へ減少する計画になっています。

一方で年間配当予想は130円。2025年の114円から増配予定で、配当性向は約40%です。

株価1,748円なら、単純計算した予想配当利回りは約7.4%。

これは目を引きます。

ふぉっふぉっふぉっ。

人は高い利回りを見ると、どうにも目が輝くものですな。

ムゲンはレバレッジを使うことを隠していない

ムゲンエステートは、自己資本比率30~35%、ネットD/Eレシオ1.2~1.5倍を財務KPIとして掲げています。

2025年実績は自己資本比率33.5%、ネットD/Eレシオ1.2倍。

また同社は、有利子負債依存度を65%以下に管理する方針を示しており、直近年度末では58.8%でした。

つまり、ディア・ライフより明確にレバレッジを利用する経営です。

その代わり、現在のPERは約8.6倍、PBRは約1.16倍、予想配当利回りは7%を超えます。

何かを得れば、何かを背負う。

世の中とは大抵そのように出来ております。

二社は似ているようで少し違う

ディア・ライフは、比較的厚い自己資本を持ちながら、現在かなり積極的に仕入れを増やしています。

ムゲンエステートは、もともと一定のレバレッジを使いながら買取再販を回す経営をしています。

ディア・ライフの配当利回りは約6%、ムゲンエステートは約7%。

数字だけならムゲンエステートの方が安く、高配当に見えます。

財務の厚みだけを見るなら、ディア・ライフ側に違った景色が見えます。

そして今、ディア・ライフでは大量に仕入れた物件がどのように売却されていくかを確認する時期に入っています。

どちらが優れているか。

さて。

そこまで簡単な話でもなさそうです。

予ならこの4つを見る

そこで、不動産株を見る時に予が帳簿の隅へ書いておくものを四つ挙げておきます。

  1. 販売用不動産はどれだけ増えているか
  2. それに伴って有利子負債がどれだけ増えているか
  3. 仕入れた物件が実際に売上と利益へ変わっているか
  4. 自己資本比率が会社自身の想定範囲に収まっているか

営業キャッシュフローがマイナスになった時も、その数字だけでは判断しません。

なぜマイナスなのか。

売れないから金がないのか。

それとも、次に売る商品を大量に買ったからなのか。

似た数字でも意味は随分違います。

そして、売却のニュースを見る

不動産会社のIRを見ていると、「○○を取得しました」というニュースがよく流れてきます。

これは将来の利益の種です。

種をたくさん撒く会社は面白い。

されど、予がもう一つ見たいのは収穫です。

取得。

取得。

取得。

取得。

それだけではまだ米俵にはなりません。

売却、決済、利益。

そこまで水が流れて、初めて一つの循環が終わります。

高配当だから永久に持つのか

ディア・ライフもムゲンエステートも、現在の配当利回りはかなり魅力的です。

しかし不動産という商売は、市況、金利、金融機関の融資姿勢、物件価格など、多くの水流の影響を受けます。

昨日まで勢いよく流れていた川が、同じ姿のまま永遠に流れ続けるとも限りません。

ゆえに予なら、「高配当だから一度買ったら何十年も忘れてよい」とまでは考えないでしょうな。

配当を頂きながら、ときどき川を見に行く。

水量はどうか。

在庫はどうか。

借入はどうか。

そして何より、水はちゃんと流れているか。

そこを眺めておけばよいのではないでしょうか。

ディア・ライフか、ムゲンエステートか

低PERと高い配当利回りを見るなら、現在のムゲンエステートはなかなか目立ちます。

一方、自己資本の厚みやこれまでの財務を見るなら、ディア・ライフにも別の魅力があります。

そしてディア・ライフでは現在、積極的に積み上げた物件をこれからどう売却していくのかという、少し興味深い局面を迎えています。

ムゲンエステートも2026年は減益計画でありながら増配を予定し、さらに2027年には再び大きな成長目標を置いています。

どちらの川が長く流れるのか。

どちらの水が先に淀むのか。

あるいは二つとも、何事もなかったように流れ続けるのか。

予にも先のことまでは分かりませぬ。

されど、水面を見ていれば、流れが変わった時くらいは気付けるかもしれませんな。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。


※株価および株式指標は2026年9月28日終値を基準にしています。業績・配当等は各社が公表した決算資料・IR資料をもとにしています。

※本記事は企業分析および筆者個人の考察を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

グンゼ(3002)は「肌着の会社」から変われるか――高配当・構造改革・メディカル成長を易経「風地観」で読む

グンゼと聞けば、まず肌着やストッキングを思い浮かべる人が多いでしょう。予も長いこと、そういう会社として見ていました。

ところが現在のグンゼをあらためて調べてみると、会社が向かおうとしている方向はかなり違います。高収益のメディカル、高機能プラスチックや半導体・医療向け材料を伸ばしながら、低収益部門を整理し、会社そのものを作り替えようとしている最中です。

しかも現在は高配当。株価も年初来高値からは下にあり、構造改革が成功するなら、配当だけでなく株価にも余地があるように見えます。

では、グンゼは今後も持っていてよい株なのか。今回は直近決算と事業構造を見ながら考えてみます。

現在の株価は4,000円前後

2026年9月28日のグンゼ終値は4,085円。年初来高値は4,765円、年初来安値は3,545円です。

現在のPBRは約1.19倍、予想PERは約24.6倍。極端な割安株とは言えませんが、年初来高値からは約14%低い位置にあります。

直近1カ月を見ると、おおむね4,000~4,200円の範囲で推移しています。9月1日には4,210円まで上昇しており、現在値から4,200円台へ戻ること自体は、それほど大きな値幅ではありません。

つまり今のグンゼを見る場合、「超割安株が突然評価される」というより、構造改革と利益改善によって再び4,200円、4,500円、その先へ評価を上げられるか、という見方になります。

グンゼはいま会社そのものを作り替えている

現在の中期経営計画「VISION 2030 stage2」で、グンゼは2025~2027年度を「創りかえる3年間」と位置づけています。

会社が成長分野として明確に挙げているのが、機能ソリューションとメディカルです。

機能ソリューションでは、プラスチックフィルムやエンジニアリングプラスチックスを展開しています。特にエンプラでは工場を増設し、半導体・医療用途向けの生産能力を強化しています。

メディカルでは、人工皮膚、組織補強材、骨接合材、人工硬膜、吸収性癒着防止材などを扱っています。グンゼが長年培ってきた繊維や高分子技術を、医療材料へ転用してきた事業です。

単に新しい事業へ手を出しているわけではありません。昔から持っていた技術を、より利益率の高い市場へ移している。予にはここが面白く見えます。

メディカルは本当に儲かるのか

「医療は成長分野です」と言うだけなら、どこの会社でもできます。重要なのは、実際に利益が出ているかどうかです。

グンゼのメディカル事業は、会社全体ではまだ巨大ではありません。しかし利益率は高く、会社自身も今後の成長柱として明確に扱っています。

2025年度計画では、メディカル売上高は前年比20.5%増を見込みました。人工皮膚、組織補強材、骨接合材などの海外展開に加え、国内では癒着防止材の販売拡大を進めています。

そして需要増に対応するため、京都府綾部市に第三工場を新設。2025年から新工場を稼働させています。

増産設備を作るということは、少なくとも会社自身は「売れるものがある」と判断して資本を投じているということです。

第三工場では、手術後の臓器癒着を防ぐ吸収性癒着防止材などの生産能力を増強しています。研究開発施設も強化し、次世代製品の開発も同時に進めています。

予がグンゼを今すぐ売りたいと思わない最大の理由は、ここです。

低収益事業を削るだけの会社ではなく、その裏側で高収益になり得る医療事業へ実際に設備投資している。

縮むだけの会社と、入れ替わろうとしている会社は違います。

機能ソリューションにも強みがある

もう一つの柱が機能ソリューションです。

グンゼはプラスチックフィルム、エンジニアリングプラスチックス、メカトロニクスなどを持っています。シュリンクラベル用フィルムや半導体・医療向け樹脂部材など、一般消費者には見えにくいBtoB製品です。

こちらも会社は生産設備を増強しています。愛知県江南市のエンプラ工場では増設を進め、半導体・医療用途の需要拡大を取り込もうとしています。

一方で2026年は原油・ナフサ価格上昇の影響も受けました。収縮フィルムでは原材料費上昇を理由に値上げも実施しています。

ここで見るべきなのは、原料高そのものではありません。

値上げしても顧客が離れず、利益率を維持できるか。

それができるなら、製品に競争力があるということになります。

1Qは利益が大きく改善

2027年3月期第1四半期では、営業利益が前年同期比で大きく改善しました。

会社は現在、構造改革費用を抱えながらも、機能ソリューションやその他の利益改善によって収益力を立て直そうとしています。

ここで重要なのは、会社が単純な売上拡大を狙っているわけではないことです。

低ROIC事業を整理し、高ROIC事業へ資本を回す。会社自身がPBR1倍以上、ROE8%以上を目標として掲げています。

昔ながらの「売上が大きければ立派」という経営ではなく、どれだけ効率よく利益を作れるかへ軸足を移しています。

高配当は魅力だが、永遠ではない

現在のグンゼを語るうえで、配当も外せません。

会社の基本方針はDOE4%以上。さらにROEが8%以上になるまで、特別配当や自己株式取得を組み合わせ、還元性向100%超の株主還元を機動的に行う方針です。

直近配当は、普通配当147円に特別配当69円を加えた216円。

株価4,085円なら、216円配当の利回りは約5.3%になります。

かなり高い。

一方で69円は文字通り特別配当です。ROEが8%以上へ改善していけば、特別配当を続ける理由は薄くなります。

これは少し面白い構造です。

会社が良くなればなるほど、特別配当が終わる可能性がある。

高配当だけを目的に持っている人には悩ましい。一方で会社がROE8%へ近づくほど株式市場からの評価が高まり、株価が上がる可能性もあります。

配当が少し減る代わりに株価が上がるなら、それはそれで株主にとって悪い話ではありません。

配当株から「構造改革株」へ変わる可能性

予には、今のグンゼがちょうど境目にいるように見えます。

現在は高配当株です。

しかし数年後には、「5%を超える配当があるから買う株」ではなく、メディカルや機能材料の成長、ROE改善、事業ポートフォリオ改革を評価して買われる会社になる可能性があります。

もしそうなるなら、現在の4,000円前後から株価が上へ動く余地もあります。

実際、年初来高値は4,765円です。

4,200円や4,300円へ戻る程度なら、業績改善が続くだけでも十分考えられる範囲です。

現在から4,250円まで上がれば約4%。100株なら現在より約1万6,500円、含み益が増える計算になります。

株価4,500円なら、現在から約10%上昇です。

構造改革が数字として見えてくれば、この程度の再評価はそれほど荒唐無稽でもありません。

次の勝負は11月5日

次回の第2四半期決算は2026年11月5日の予定です。

ここで予が見るのは三つです。

  • メディカルが増収を続けているか
  • 機能ソリューションの利益が原材料高の中でも維持されているか
  • 構造改革による利益改善が会社全体へ表れ始めているか

この三つが確認できれば、グンゼは「配当が高いから持つ株」から「利益構造そのものが変わる株」へ一段進みます。

逆にここが崩れるなら、現在の高配当を受け取っている間に出口を考える理由が強くなります。

そして易に問う

さて。

数字を眺めただけでは終わらぬのがマスターJです。

グンゼについて易に問うてみました。

出た本卦は――

風地観(ふうちかん)。

そして第三爻と上爻が変じ、変化後の卦は、

水山蹇(すいざんけん)。

「観」は、その字の通り観る卦です。

急いで動くより、まず全体を見る。表面だけではなく、その奥にある流れを観察する。

これは今のグンゼを見るには妙に似合っています。

配当5%。

これだけを見れば買いたくなる。

工場閉鎖。

これだけを見れば不安になる。

メディカル新工場。

これだけを見れば成長企業にも見える。

どれか一つだけを見て結論を出すのではなく、全体を見る。

まさに「観」です。

第三爻――進むか退くか、自らを見る

今回動いた一つ目は第三爻です。

風地観の第三爻には、自分自身のあり方を観察し、進むべきか退くべきかを考える意味があります。

これもまた投資にそのまま重なります。

会社が良いか悪いかだけではありません。

自分はなぜこの株を持っているのか。

配当を取りたいのか。

値上がりを狙うのか。

長期で会社の変化を見届けるのか。

自分の目的を見なければ、売買判断は定まりません。

上爻――最後まで観る

もう一つ動いたのが上爻です。

物事を高い場所から眺め、全体を観る位置です。

グンゼの場合、目の前の配当だけでなく、その先を見る。

特別配当が終わる。

しかしROEが改善する。

工場を閉じる。

しかし医療工場は増設する。

売上を縮める事業がある。

しかし高収益事業へ資本を移す。

一つのニュースだけで判断すると、正反対の結論が出てしまいます。

ゆえに観る。

変化後は水山蹇

そして変化後に出たのが水山蹇。

「蹇」は、進みにくい、困難がある、足元に障害があるという卦です。

今回の占い画面でも判定は「慎重寄り」。

無理押しは避け、問題点を直してから動く方が扱いやすい、と出ています。

これもグンゼの現状と不思議と重なります。

会社は成長分野を持っている。

されど、すべてが順風満帆というわけではない。

新工場には償却負担がある。

機能材料には原料高がある。

構造改革には費用がかかる。

高配当にも終わりがあるかもしれない。

進めぬわけではない。

しかし、急ぐ道でもない。

そして老子はこう言う

知足不辱、知止不殆。

足るを知れば辱められず、止まるを知れば危うからず。

今回、玄庵式易占が選んだ一句です。

もっと上がるかもしれない。

もっと配当をもらえるかもしれない。

もう少し待てば。

投資をしていると、「もう少し」が際限なく現れます。

一方で早く降りすぎれば、後から伸びる株を捨てることにもなる。

足るを知る。

止まる時を知る。

簡単そうで、これが一番難しい。

予は今のグンゼをどう見るか

予なら、今のグンゼをすぐには捨てません。

理由は配当だけではありません。

メディカルには実際の需要があり、新工場まで作っている。機能ソリューションにも半導体・医療という成長先がある。そして会社全体では、低収益事業を整理してROEを引き上げようとしています。

つまり株価をもう一段押し上げる材料は、まだ残っています。

一方で、現在の216円配当が永遠に続くとは見ません。

ゆえに永久保有と決める必要もない。

次の決算を観る。

利益改善を観る。

メディカルの成長を観る。

市場がグンゼを見る目の変化を観る。

そのうえで、十分なところまで株価が来たなら降りればよい。

風地観。

まず観よ。

水山蹇。

急ぐな。

そして老子曰く、

知足不辱、知止不殆。

さて、グンゼは肌着の会社から、何の会社へ変わっていくのでしょうな。

しばし、観るとしましょうかのう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。


※本記事は公開されている決算資料、IR情報、株価情報などをもとにした企業分析および筆者個人の考察です。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

※易経・老子を用いた部分は、企業や相場について考えるための思想的・娯楽的な試みです。

2026年9月15日火曜日

アスクル(2678)は復活できるか?ランサムウェア後の決算を「水沢節」で読む

2025年10月、通販大手のアスクルをランサムウェアが襲いました。

ネット通販企業にとって、受注システムと物流は商売の血管のようなものです。その血流が止まり、商品の受注・出荷まで停止する事態となりました。しかも影響はアスクルだけではなく、物流を委託していた企業のネット販売にも波及しました。

あれからおよそ1年。2026年9月15日、アスクルが2027年5月期第1四半期決算を発表しました。

ランサムウェアで大きく傷ついた会社は、どこまで戻ったのか。そして現在の株価には、その復活がどこまで織り込まれているのか。

今回は決算と株価を眺めた後、いつものように易にも問うてみました。

まず、2025年のランサムウェア事件を振り返る

アスクルが異常を検知したのは2025年10月19日。外部からの不正アクセスによってランサムウェアに感染し、同日中にネットワークを遮断しました。

新規注文の受付は停止。受注・出荷業務にも大きな影響が出ました。その後、顧客情報や取引先情報の一部が外部へ流出したことも確認されました。

アスクルは10月23日までに主要な外部クラウドサービスのパスワード変更を行い、10月24日には管理アカウントへの多要素認証などを実施。11月12日には安全性を確認したうえで、一部Web注文を再開しています。

2026年に入ってからも情報漏えいに関する対応は続いており、7月には追加の本人通知も行われています。

一企業のシステム障害というより、アスクルという巨大な物流・EC網そのものが止まった事件だったと言った方が近いでしょう。

※2025年10月、ランサムウェア攻撃直後の状況を伝えたTBS NEWS DIGの報道です。

その結果、2026年5月期は大赤字になった

事件の傷跡は、2026年5月期の数字にはっきり表れています。

項目 2026年5月期
売上高 約4,002億円
営業損益 ▲174億円
経常損益 ▲191億円
最終損益 ▲222億円

前期の2025年5月期には約4,811億円を売り上げ、営業利益も約140億円出していました。

つまり、「元から儲からない会社が赤字になった」のではありません。利益を出していた通販・物流企業が、サイバー攻撃を境に大幅赤字へ転落したわけです。

この違いは大きい。

企業分析では赤字という結果だけではなく、なぜ赤字になったのかを見る必要があります。

そして今回の2027年5月期1Q決算

では、復旧後の新しい年度はどうなったのでしょうか。

2027年5月期第1四半期は、売上高約1,123億円。前年同期比では約8%の減収となりました。

営業損益は約4億円の赤字、経常損益も約4億5,000万円の赤字。前年同期には経常利益約9億円を計上していたので、表面だけ見ればまだ回復したとは言えません。

項目 2027年5月期1Q
売上高 約1,123億円
前年同期比 約8.2%減
営業損益 ▲約4.2億円
経常損益 ▲約4.5億円

これだけを見ると、「まだ赤字じゃないか」となります。

予も、数字だけならそう読みます。

されど、ここで2026年5月期の▲174億円という営業赤字を思い出してみます。会社が生き残れるかを見る段階から、今は「本来の利益率へどこまで戻せるか」を見る段階へ移りつつあります。

会社は通期で営業利益70億円を見込んでいる

アスクルは2027年5月期通期について、売上高4,900億円、営業利益70億円、経常利益63億円、最終利益40億円という計画を掲げています。

つまり会社自身は、1Qの赤字をもって「今年もダメ」とは考えていません。

前期営業損失174億円から、今期営業利益70億円へ。

実現すれば、損益は一年で約244億円改善することになります。

これはかなり大きなV字回復計画です。

予が最も見たいのは売上ではなく利益率

アスクルの場合、売上高だけが戻ればよいという話でもありません。

通販会社は商品を売り、その粗利益から倉庫、人件費、配送費、システム費などを支払います。1,000億円売っても利益がほとんど残らなければ、株主にとってはあまり意味がありません。

今回の1Qでは売上総利益率も前年同期より低下しています。

ここから先を見るなら、予は三つに絞ります。

  • 売上高が事件前の水準へ戻っていくか
  • 営業損益が2Q以降で黒字へ戻るか
  • 売上総利益率が改善するか

この三つです。

特に営業利益でしょうな。

売上が戻っているのに利益が戻らないのであれば、サイバー攻撃とは別の問題が残っていることになります。逆に利益率まで戻ってくれば、「一時的な大事故からの復旧だった」という見方が強くなります。

アスクルには本来の稼ぐ力があるのか

ここで事件前の数字へ戻ります。

2025年5月期には営業利益約140億円を稼いでいました。

予には、この数字が重要に見えます。

現在の通期営業利益計画は70億円ですから、会社はまだ事件前の利益水準へ完全に戻るとは予想していません。言い換えれば、今期70億円を達成しても、それで完全復活というわけではない。

140億円を出せていた会社が、まず70億円まで戻る。

その先に100億円、140億円と戻れるのか。

もし戻れるなら、現在の業績だけを見て会社の価値を判断するのは早いかもしれません。

ランサムウェア事件は「一過性」で片づけてよいのか

ここは少し慎重に考えたいところです。

工場が台風で一週間止まり、その後完全復旧したという話なら、一過性損失として比較的切り分けやすい。

サイバー攻撃は違います。

システム改修費用、セキュリティ強化費用、顧客対応、ブランドへの影響、取引先との関係、失った注文。その影響がどこまで残っているのか、外から完全に把握することは容易ではありません。

一方、アスクル側も事件後に認証情報のリセット、管理アカウントへの多要素認証、EDRの更新などを進めています。

事故そのものは悪材料です。

されど、その事故によって以前より強い仕組みを作れるなら、数年後から見た景色はまた変わります。

株価はどこまで戻ったのか

株価も確認してみましょう。

2026年のアスクル株は、1月に1,435円まで上昇した一方、3月には1,051円まで下落しています。9月14日の終値は1,229円でした。

つまり年初来安値からは戻っているものの、年初来高値にはまだ届いていません。

市場も「もう完全復活した」と強気一辺倒になっているわけではなさそうです。

9月14日時点で予想PERは約27倍、PBRは約2.3倍。数字だけ見れば、「ランサムウェアで暴落して何もかも安くなった銘柄」という感じではありません。

むしろ、今期の黒字転換をある程度期待した値段が付いている、と考えた方が自然でしょう。

安い株なのか、それとも復活を先取りしているのか

ここがアスクルを見るうえで面白いところです。

事件前には営業利益140億円程度を出していた会社です。今期計画は70億円。その利益が数年かけて元へ戻るなら、現在の業績だけを使ったPERには違った見え方が出てきます。

反対に、70億円すら達成できず、利益率も低迷したままなら、現在の株価は決して安いとは言えません。

つまり今アスクル株を評価するには、単純なPERだけでは足りません。

「本来どれくらい稼げる会社なのか」

そこを考える必要があります。

予なら次の決算でここを見る

次回決算で営業黒字へ転じているか。

これがまず一つ。

次に、売上総利益率。そして通期営業利益70億円に対する進捗率です。

1Qが赤字だった以上、70億円を達成するには2Q以降で利益をかなり積み上げなければなりません。

もし2Qで利益回復が明確になれば、市場は「アスクルが戻ってきた」と見始めるでしょう。

逆に2Qでも利益が低迷するなら、通期計画への疑問が強くなります。

今回の1Qは、結論を出す決算というより、復旧過程を確認する決算と見る方がよさそうです。

そこで易に問うてみた

さて。

数字だけ眺めて終わっては、マスターJではありません。

今回のアスクルについて易に問うてみました。

出た卦は――

水沢節(すいたくせつ)。

しかも変爻なし。

「節」とは、区切ること。限度を設けること。節度を守ることです。

勢いに任せ、どこまでも進めばよいという卦ではありません。

必要なところで線を引き、自分の限界を知り、整える。

今回出た簡易判定も「慎重寄り」でした。

ふむ。

ランサムウェアで大きく傷つき、現在は復旧途上。1Qはまだ赤字。通期では大幅な黒字転換を目指している。

今のアスクルへ「もう大丈夫じゃ、買え買え」と言うよりも、利益が実際に戻るところを確認せよ――そう読めなくもありませんな。

しかも変爻がない

易では爻が変化すると、そこから別の卦へ移ります。

今回はそれがありません。

予なら、この「変化なし」を、今は無理に未来へ話を飛ばさず、現在の状態そのものをよく見よという読み方をしてみます。

完全復活でもない。

破綻でもない。

回復の途中にいる。

売上が戻るか。

利益が戻るか。

顧客が戻るか。

通期計画を守れるか。

今ある事実を、一つずつ確かめる。

まこと「節」という字が似合います。

そして老子はこう言う

知足不辱、知止不殆。

足るを知れば辱められず、止まるを知れば危うからず。

欲を出しすぎず、限度を知る。

これは企業経営にも、投資にも通じる言葉でしょう。

アスクル自身も、事故から一気に何もかも元へ戻そうとすれば、また無理が生じるかもしれません。システムを直し、物流を戻し、顧客を戻し、利益を戻す。順番に積み上げるしかありません。

投資する側も同じです。

「昔140億円稼いでいたのだから、すぐ戻るだろう」と先走ることもできる。

「1Q赤字だからもう終わりだ」と切り捨てることもできる。

予には、どちらも少し急いでいるように見えます。

水沢節――水を溜めるには堤がいる

水沢節の「節」は、水を無制限に流すのではなく、区切りを作る姿として見ることもできます。

水は流れる。

されど、流すだけなら散ってしまう。

堤があるから水は溜まり、必要なところへ使うことができます。

会社も同じなのかもしれません。

売上だけを増やせばよいのではない。

利益を残す。

守るべき情報を守る。

物流を止めない。

そして無理なところでは止まる。

ランサムウェアという大きな事故を経験したアスクルに、今回「節」が出たというのは、偶然ながらなかなか味わい深いものがあります。

アスクルは復活できるのか

現時点で予の答えは、まだ分からぬ、です。

2027年5月期1Qは赤字。これだけなら強気にはなれません。

一方で、事件前には年間140億円前後の営業利益を出していた会社であり、今期は70億円への黒字転換を計画しています。

売上が戻り、粗利益率が改善し、2Q以降で営業黒字が積み上がるなら、復活物語は現実味を増してきます。

そして戻らなければ、それもまた数字が教えてくれる。

ゆえに今は急がず、見る。

水沢節。

知足不辱、知止不殆。

足るところを知り、止まるところを知る。

さてアスクルは、この大きな傷を越えて再び流れ始めることができるのか。

次の決算まで、しばし水面を眺めるとしましょうかのう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。


※本記事は公開されている企業情報、決算資料、株価情報等をもとに筆者が企業を考察したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

※易経および老子を用いた部分は、投資判断を保証する占いではなく、企業や相場について考えるための思想的・娯楽的な試みです。

水は低きに流れる――日銀利上げをマスターJが眺めてみる

また金利の話が騒がしくなってきました。日本銀行は9月17日から18日に金融政策決定会合を開く予定で、市場では現在およそ1.00%の政策金利を1.25%へ、0.25ポイント引き上げるとの見方が中心になっています。

一方、その直前に開かれる米国のFOMCでも利上げ観測が強まっています。日本が0.25ポイント上げても、日米の金利差はなお大きく残る可能性があります。

金にも流れがある

水は高きところから低きところへ流れます。誰かが命令するからではなく、傾きがあるから流れる。

金もまた、まったく同じではないにせよ、流れやすい方向があります。金利が高ければ、それだけ金を置くことで得られるものも大きくなります。

もちろん為替は金利差だけで決まるものではありません。景気、物価、貿易、財政、政治、市場心理。さまざまな水が合流して、一つの大きな川になります。

それでも金利差は、その川底についた一つの傾斜ではあります。

日銀はまた0.25ポイントか

市場では今回も、日銀が政策金利を0.25ポイント引き上げて1.25%とする見方が強まっています。

2026年6月にも日銀は0.75%から1.00%へ0.25ポイント引き上げました。当時も、日本の政策金利は他国と比べればなお低い水準にあり、円キャリー取引への影響などが注目されました。

今回も0.25ポイントとなれば、日本の政策金利は1.25%。一方で米国の金利は依然として日本よりかなり高い水準にあります。

さて、この程度の傾斜の変化で、水の流れはどこまで変わるのでしょうな。

利上げすれば円高になるのか

利上げと聞けば、一般には円高材料と考えられます。金利差が縮まれば、円を売って高金利通貨へ向かっていた資金の流れが弱まる可能性があるからです。

されど相場というものは、そう簡単ではありません。市場がすでに利上げを織り込んでいれば、実際に発表された瞬間にはほとんど動かないこともあります。

逆に、政策金利そのものより「この先どこまで上げるつもりなのか」という一言の方が大きく効くこともあります。

市場が見ているのは、今日落ちた一滴だけではありません。その先に続く川です。

金利が動けば株も動く

利上げは為替だけの話でもありません。金利が上がれば、企業の借入コスト、住宅ローン、預金、債券、そして株式市場にも影響します。

一般には、金利上昇は将来の利益を高く評価されている成長株には向かい風となりやすく、銀行など金利上昇が利益につながりやすい業種には追い風になる場合があります。

もっとも、それも毎回教科書どおりに動くとは限りません。金利上昇を見越して銀行株を買った頃には、その材料がすでに株価へ織り込まれていることもあります。

ゆえに予は、「利上げだから何を買え」とは申しません。ただ水面を見るだけです。

水は低きに流れる

水は低きに流れます。されど川には岩もあり、堰もあり、支流もある。雨が降れば、流れそのものが変わることもあります。

金の流れもまた、似たようなものなのでしょう。

大方の予想より低い0.25%の利上げとなるようじゃ。

水は低きに流れるというが、どうなることかのう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本記事は金融政策や市場について筆者の考えをまとめたものであり、将来の為替・株価を予測または保証するものではありません。

2026年9月4日金曜日

三井物産(8031)を2010年に買った予が、2026年の決算をもう一度読む――「多ければ則ち惑う」

 


2010年。

予が株式投資を始めた頃、投資候補はいくつもありました。

その中で実際に資金を投じた会社の一つが、**三井物産(8031)**です。

当時の三井物産の株価を、現在と比較できるよう2024年の1対2株式分割を調整した数字で見ると、

  • 2010年始値 661円

  • 年間高値 832円

  • 年間安値 497円

  • 年末終値 670円

でした。

株式分割前の当時の画面で見えていた株価に直せば、おおむね1,000~1,600円台です。

そして2026年9月4日の終値は、

5,019円。

2010年末の分割調整後670円と比べると、約7.5倍です。2010年の年間高値832円から見ても約6倍、安値497円なら約10倍になります。

もちろん予が2010年の底値を完璧に買った、などという話ではありません。

重要なのはそこではない。

十数年前に買った会社が、今なお日本を代表する企業として残り、株価も企業価値も大きく変わった。

では2026年現在、この会社にはまだ「理」があるのか。

最新決算から見てみましょう。

最新決算――第1四半期利益は過去最高

三井物産が2026年8月4日に発表した2027年3月期第1四半期決算。

親会社株主に帰属する四半期利益は、

2,941億円。

前年同期の1,916億円から、

1,025億円、約53%増。

第1四半期としては過去最高となりました。

基礎営業キャッシュ・フローも、

2,163億円 → 2,809億円

と646億円増えています。

会社の2027年3月期通期計画は、

  • 当期利益 9,200億円

  • 基礎営業キャッシュ・フロー 1兆500億円

です。

まだ第1四半期なのに、利益はすでに年間計画の32%、基礎営業キャッシュ・フローも**27%**まで進んでいます。

単純に4倍して「年間1兆1,764億円だ!」などと考えるのは早計です。

今回の利益には資産リサイクル益や企業価値評価に伴う利益も含まれているからです。

それでも、出足がかなり良いこと自体は間違いありません。

三井物産はもう「資源だけの会社」ではない

総合商社というと、

「鉄鉱石」
「石油」
「LNG」

というイメージが強い。

三井物産も依然として資源・エネルギーの巨大な権益を持っています。

今回の第1四半期利益を見ると、

  • 金属資源 612億円

  • エネルギー 344億円

  • モビリティ・デジタル・インフラ 730億円

  • 化学品 266億円

  • ウェルネスエコシステム 184億円

  • イノベーション&コーポレートディベロップメント 652億円

となっています。

ここが現在の三井物産を見るうえで面白いところです。

金属資源だけで食っている会社ではありません。

モビリティ、デジタルインフラ、化学品、医療・健康分野、事業投資、エネルギー。

利益を生む水源がかなり多い。

もちろん資源価格が動けば利益も大きく動きます。

しかし一つの井戸が枯れたら終わる会社ではなくなっている。

巨大商社とは、世界中に何本もの水路を引き、その時々で流れの強い場所から水を集める存在とも言えます。

むしろエネルギーはこれから寄与する

第1四半期のエネルギー部門の利益進捗率は**17%**にとどまっています。

一見すると悪い。

ところが会社自身は、

「エネルギーは第2四半期以降に本格的な貢献を見込む」

と説明しています。

年間計画2,000億円に対して、第1四半期は344億円。

ここが予定どおり後半へ向かって伸びてくるなら、ほかの部門ですでに高い進捗を出していることも合わせ、年間9,200億円という利益計画は十分射程に入っているように予には見えます。

むしろ今後見るべきなのは、

「9,200億円を達成できるか」より、「どこまで上振れ余地が残っているか」

ではないでしょうか。

とはいえ第1四半期の数字をそのまま信じてはいけない

ここで水面を静かにしておきます。

今回、非常に進捗率が高い部門があります。

イノベーション&コーポレートディベロップメントです。

年間利益計画700億円に対して、第1四半期だけで652億円。

進捗率はなんと93%。

これだけ見ると、とてつもない成長事業に見えます。

実際には資産リサイクル益などが大きく寄与しています。

つまり、

2,941億円という第1四半期利益のすべてが毎四半期繰り返されるわけではない。

ここは分けて考える必要があります。

一方で、会社全体として基礎営業キャッシュ・フローが2,809億円まで伸びている。

利益だけではなく、事業から金を生み出す力も強い。

予はこちらの方を重く見ます。

2,000億円の自社株買い

そして三井物産は今回、

上限2,000億円の自己株式取得

を発表しました。

取得期間は2026年8月5日から2027年1月29日まで。

取得した株式は、その後すべて消却する予定です。

さらに年間配当予想は、

1株140円。

2026年3月期の115円から25円増える計画です。

会社は中期経営計画2029の期間中、140円以上を基準とする累進配当を掲げています。

基礎営業キャッシュ・フローに対する株主還元割合の目標も、50%超へ引き上げました。

2021年3月期の分割調整後配当42.5円から、2027年3月期予想140円。

会社資料によれば、この間の配当の年平均成長率は**22%**です。

昔の三井物産と、今の三井物産。

同じ8031でも、株主への金の返し方はかなり変わったと感じます。

今の5,000円は高いのか

2026年9月4日の終値5,019円。

会社予想EPSは約324.6円なので、予想PERはおよそ15倍台。

PBRもおおむね1.6倍前後です。

2010年の株価から見れば、とんでもなく上がっています。

だからといって、

「昔670円だった株が5,000円だから高い」

とは言えません。

株価だけが7倍になったわけではないからです。

事業規模も利益水準も株主還元も、当時とは別物になっています。

逆に、昔安かったという理由だけで今も割安だとも言えません。

見るべきものは過去の値札ではない。

現在の会社が、現在の5,000円という値段に見合うだけの金を将来生み出せるか。

そこです。

予はこの先をどう見るか

予の見立てでは、今後1~数年の三井物産はかなり面白い位置にいます。

第一に、今期9,200億円の利益計画に対して第1四半期32%という好進捗。

第二に、第1四半期ではまだ利益進捗17%にとどまるエネルギー事業について、会社は第2四半期以降の本格寄与を見込んでいる。

第三に、過去に行った成長投資の中から、天然ガス、LNG、鉄鉱石、デジタルインフラ、モビリティなど複数の案件が今後順次収益へ貢献する計画になっています。

第四に、強いキャッシュ創出を背景として、累進配当と自社株買いを同時に進めている。

この組み合わせなら、現在の年間利益9,200億円近辺を一つの土台として、次の利益水準へ進む可能性はあります。

予なら現時点では、

「今期計画は達成圏。資源市況が大きく崩れず、予定しているエネルギー案件が寄与すれば上振れの余地もある」

と読みます。

一方、三井物産は世界中に事業を持つ会社です。

鉄鉱石、銅、原油、天然ガスなどの商品価格。

為替。

各国の景気。

金利。

地政学。

投資先企業の価値。

あまりにも多くのものが利益へ影響します。

そして、ここで老子です。

「多ければ則ち惑う」

『老子』第二十二章に、

「少則得、多則惑」

という言葉があります。

日本語で読めば、

「少なければ則ち得、多ければ則ち惑う」

です。

多くのものを求めすぎれば、かえって迷う。

これは投資にもそのまま当てはまるように思います。

2010年の予の前にも、買えそうな株はいくつもありました。

あの株も欲しい。

この株も面白い。

こっちも上がりそうだ。

しかし財布は有限です。

結局、その中から三井物産という一つを選びました。

今なら毎日、何千という銘柄の株価が見える。

SNSを開けば、

「次はこれだ」

「この株が10倍になる」

「今買わないと間に合わない」

そんな情報が際限なく流れてきます。

全部を追えば、かえって何も見えなくなる。

そして三井物産自身もまた、世界中に無数の投資機会を持ちながら、会社資料では何度も**「投資規律」「厳選」**という考えを掲げています。

金があるから何でも買うのではない。

機会が多いから全部取るのでもない。

選ぶ。

捨てる。

一つを抱く。

投資する者にも、投資される企業にも、同じ理があるのかもしれません。

2010年から十数年。

三井物産の株価は、分割調整後670円前後から5,000円台まで来ました。

それでも最新決算を見る限り、会社そのものはまだ止まってはいません。

新しい事業へ金を流し、

古い資産を入れ替え、

稼いだ金を株主へ返し、

また次の収益源を作ろうとしている。

では、次にどの株を買うのか。

どのテーマを追うのか。

どの情報を信じるのか。

相場には誘惑が多すぎます。

ゆえに最後は、この言葉に戻るとしましょう。

少なければ則ち得。

多ければ則ち惑う。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本記事は筆者の投資経験および公開資料を基にした企業分析・考察です。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

2026年9月1日火曜日

パーク24(4666)を2010年から見ていた予が、2026年3Q決算をあらためて読む


2010年ごろ、予はパーク24(4666)という会社を投資候補として見ていました。

きっかけは非常に単純です。

当時、日常の中でタイムズのカーシェアを目にする機会がありました。

予はそれを見て、

「これは合理的な商売ではないか」

と思ったのです。

電車で通勤して、車を使うのは休日くらい。

そのためだけに車を所有すれば、

車両代、駐車場代、車検、税金、保険、整備費。

乗っていない時間にも金がかかります。

それなら必要な時だけ車を借りればよい。

今では珍しくない考え方ですが、2010年当時の予には、カーシェアという仕組みそのものがかなり新鮮に映りました。

2010年のパーク24株は800~1000円前後だった

実際に2010年の株価を振り返ると、

  • 年初値:999円

  • 年間高値:1,068円

  • 年間安値:756円

  • 年末終値:869円

でした。

翌2011年も年間安値695円、高値1,040円、年末1,022円です。

そして2026年9月1日の終値は2,076円。

単純比較なら、2010年末869円から約2.4倍になっています。

では予は2010年に買ったのか。

買っていません。

良いと思った株を全部買えるわけではない

買わなかった最大の理由は、もっと単純です。

ほかの株を買ったからです。

投資資金には限りがあります。

面白そうな会社を10社見つけても、10社すべてを買えるとは限りません。

当時の予にはカーシェアの将来性が面白く見えました。

一方で、利用料金は決して安く感じませんでしたし、まだ広く社会へ浸透する商売なのかも分からなかった。

そして最終的には、限られた資金を別の銘柄へ振り向けました。

今になってパーク24が上がったからといって、

「あの時買っておけばよかった」

と考える必要はないと思っています。

当時選んだ別の株も、その後上昇しました。

すべての良い波には乗れません。

これは投資を長く続けていると、嫌でも分かってくることです。

では十数年経った現在、パーク24はどんな会社になったのか。

ちょうど2026年8月31日に第3四半期決算が発表されたので、あらためて見てみます。

2026年3Qは売上より利益の伸びが目立つ

2026年10月期第3四半期累計は、

  • 売上高:3,040億円 前年同期比2.7%増

  • 営業利益:289億円 同16.2%増

  • 経常利益:267億円 同20.0%増

  • 純利益:364億円 同265.1%増

となりました。

予がまず見るのは、純利益3.6倍という派手な数字ではありません。

純利益の急増には、英国事業再編などに伴う税効果が大きく影響しています。

それより面白いのは、

売上高は2.7%しか増えていないのに、営業利益は16.2%、経常利益は20.0%伸びている

ことです。

つまり、単に事業規模が膨らんでいるだけではなく、利益の出し方が改善している。

ここは素直に評価したいところです。

2010年に見たカーシェアは、今や会社の柱になった

予が2010年ごろに面白いと思っていたカーシェアは、現在「モビリティ事業」という大きな事業になっています。

パーク24のモビリティ事業とは、タイムズカーなどを中心としたカーシェア・レンタカー事業です。

会社の中期計画でも、モビリティ事業は利益成長を牽引する事業として位置づけられています。

2026年10月期計画では、

売上高1,488億円、事業利益184億円

を見込んでいます。

さらに2026年8月には、タイムズカーの会員数が400万人を突破しました。

2010年に予が見ていたのは、

「自分で車を持たなくても、必要な時だけ借りればよいのではないか」

という単純な仕組みでした。

十数年後、それが数百万人規模のサービスになっている。

ここはなかなか面白いものがあります。

駐車場の会社から「移動の会社」へ

パーク24という名前からは、どうしても時間貸し駐車場の会社という印象を持ちます。

しかし現在は少し違います。

駐車場がある。

そこに車がある。

会員がスマートフォンなどから車を予約する。

必要な時だけ乗る。

そして戻す。

つまり会社が押さえているのは、

「駐車する場所」だけではなく「人が移動する仕組み」

です。

予が2010年に感じたカーシェアの魅力も、突き詰めればここだったのでしょう。

人は車そのものが欲しいのではない。

目的地へ移動したい。

ならば「所有」という形を取る必要はない人もいる。

水が器に合わせて姿を変えるように、人間の移動手段も時代によって形を変えます。

一方で、成長には金もかかる

今回の決算を見て、

「全部良い」

で終わるつもりもありません。

カーシェア事業は車両を増やさなければなりません。

パーク24自身も2026年度について、単純に増車を続けるのではなく、増車ペースを緩めながら会員獲得や1台あたりの収益改善を進める方針を示しています。

これは逆に言えば、

車を増やせば自動的に儲かる商売ではない

ということでもあります。

車両は買えば終わりではありません。

減価償却もある。

整備もある。

事故もある。

利用率が悪ければ、車はただ置かれている資産になります。

だから今後は、

「会員数が何人増えたか」

だけではなく、

1台の車からどれだけ利益を生み出せるか

を見る必要があります。

会社もそこを課題として認識しています。

海外事業は縮めて利益を残す方向へ

海外事業も興味深いところです。

パーク24は海外駐車場事業の再編を進めています。

会社の中期計画では、モビリティ事業と海外事業を今後の利益成長を牽引する分野として位置づけています。

今回の決算では英国事業再編の影響が純利益にも大きく出ました。

ここは単純に、

「海外売上が大きければよい」

という話ではありません。

余分な荷物を降ろして利益を残せる会社へ変われるか。

その方が予には重要に見えます。

易経に問うてみた

さて。

せっかくなので、今回も易に問うてみました。

出た卦は、

地水師(ちすいし)

そして第四爻が変じ、

雷水解(らいすいかい)

となりました。

「師」は軍勢を表します。

兵がいるだけでは軍にはなりません。

人を集め、配置し、統率し、一つの目的へ向かわせる。

予には、今のパーク24が少しこの「師」に重なって見えます。

駐車場。

カーシェア車両。

会員。

アプリ。

決済。

それぞれ単独ならただの点です。

それらを全国に配置し、一つの移動網として組織する。

点を集めて陣を作る。

パーク24の強さは、そこにあるのかもしれません。

そして変爻となった第四爻には、

「師左次、无咎」

という言葉があります。

無理に進撃せず、いったん陣を移して整えるなら咎なし。

予は今回、これをかなり面白く感じました。

パーク24は今、ただ台数を増やすことだけを目指しているわけではありません。

カーシェアの増車ペースを調整し、1台あたりの収益改善へ軸足を移そうとしています。

海外でも事業再編を進めています。

前へ前へと兵を出すのではなく、

一度陣形を整える。

偶然とはいえ、会社の現状に妙に重なる卦です。

そして之卦は「解」。

解く。

ほどく。

困難から解放される。

重荷を降ろす。

海外事業の再編や収益構造の改善まで考えると、これまた興味深い。

もちろん易が会社の未来を保証してくれるわけではありません。

当たるも八卦、当たらぬも八卦。

それでも、企業を見るための別の角度として楽しむには、なかなか面白い卦が出ました。

十数年経った今、もう一度見るパーク24

2010年。

パーク24の株価は年間756円から1,068円の範囲で動いていました。

予はその頃、カーシェアという新しい仕組みを見て、

「これは伸びるのではないか」

と考えました。

しかし株は買わなかった。

ほかの波を選んだからです。

そして2026年。

株価は2,000円前後。

カーシェア会員は400万人を超え、モビリティ事業は会社を支える大きな柱へ育ちました。

今回の3Q決算も、売上高2.7%増に対して営業利益16.2%増、経常利益20.0%増。

少なくとも、利益面では悪くない流れです。

もちろん、この先も成長が続くかは分かりません。

カーシェアには車両投資が必要です。

利用率も重要です。

海外再編が本当に実を結ぶかも、これからです。

それでも――

十数年前に予が面白いと思った商売が、ここまで大きくなった。

そして今の決算をあらためて眺めても、まだ先を見てみたくなる部分がある。

十年以上経った今でも、パーク24はなかなか妙味のある株と言えんこともないかのう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本ブログにおける易経の解釈は、投資を考えるための思想的・娯楽的な試みです。将来の株価を保証するものではありません。

※本記事は企業分析および筆者個人の経験・考え方をまとめたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

2026年8月31日月曜日

千里の行も足下に始まる 予の投資人生は東京電力から始まった

 

千里の行も足下に始まる。

老子に由来する有名な言葉です。

どれほど長い旅であっても、始まりは足元から踏み出す一歩にあります。

これは投資にもよく当てはまる言葉ではないでしょうか。

本を読む。

株価を見る。

ニュースを見る。

決算を勉強する。

それらももちろん大切です。

しかし予は、株式投資について本当に多くのことを教えてくれたのは、

実際に自分のお金で一銘柄を買ったこと

だったと思っています。

株は買って初めて「自分のこと」になる

株を持っていない時、株価はただの数字です。

ニュースで、

「○○株が5%上昇」

と言われても、どこか他人事です。

ところが自分で株を買った瞬間、それが変わります。

昨日より5円上がった。

今日は10円下がった。

決算が出た。

新しい商品が発表された。

社長が何か言った。

政府が制度を変えた。

それまでなら読み飛ばしていたニュースを、自分から読むようになります。

なぜなら、自分のお金がそこにあるからです。

そして不思議なもので、株を持っていると企業にも少しずつ愛着が湧いてきます。

良いところも見えてくる。

悪いところも見えてくる。

市場がその会社をどう評価しているのかも気になる。

一銘柄を持っただけなのに、そこから経済、政治、金利、為替、業界構造へと興味が広がっていく。

予は、投資の勉強というものは、こうして始まる部分がかなり大きいと思っています。

予の最初の一歩は東京電力だった

予が最初に株式投資へ踏み出した時、選んだのは東京電力でした。

東日本大震災の後です。

福島第一原子力発電所事故によって東京電力の株価は大きく下落し、それまでの株価から考えれば冗談のような水準まで落ちていました。

もちろん会社は大変な状況です。

原発事故。

巨額の賠償。

廃炉。

電力供給。

政治問題。

とても普通の優良企業として買える状態ではありませんでした。

しかし予は考えました。

国は東京電力を本当に潰すのだろうか。

首都圏の電力供給を担う巨大企業です。

社会インフラとして必要不可欠です。

どうやら国も支える方向らしい。

ならば、

潰れないのであれば、いつか株価もある程度戻るのではないか。

そう考えました。

そして株価そのものも非常に安く見えた。

投資の勉強代として買ってみるにはちょうどよい。

そう思って証券口座を開き、東京電力株を買いました。

これが予の一歩目です。

そして、いきなり勝ってしまった

ところが。

買った後、東京電力株は激しく上昇しました。

連日のように株価が跳ね上がっていく。

初心者だった予からすれば、

「株とはこんなに儲かるものなのか」

となります。

そりゃあ有頂天にもなります。

自分なりに考えて買った。

そして実際に上がった。

これは気持ちがいい。

自分には株の才能があるのではないか。

そんな気分にもなります。

今振り返れば、これが一つの罠だったのでしょう。

初めて買った株で、いきなり良い思いをしてしまった。

予が値動きの激しい株を初心者へ安易に勧めない理由の一つも、ここにあります。

最初に勝つことは、必ずしも良いことばかりではありません。

一度見た夢は、人を縛る

その後、東京電力株は順調に上がり続けたわけではありませんでした。

上がったかと思えば下がる。

また上がる。

期待が集まる。

そしてまた落ちる。

長い年月、それを繰り返します。

しかも東京電力には配当がありません。

普通にファンダメンタルズを見るなら、長期保有に向いていると言いにくい株です。

業績にも巨大な不確実性がある。

原発再稼働もある。

廃炉問題もある。

賠償もある。

政策にも大きく左右される。

それでも予は持ち続けました。

なぜか。

一度、大きく上昇する姿を見てしまったからです。

「まだ上がるのではないか。」

原発が再稼働すれば。

復配すれば。

環境が変われば。

いつかまた。

そう思う。

実際、東京電力は時折ものすごい勢いで上昇します。

すると、

「ほら、やはり来た」

と思う。

しかし、その後また値を下げる。

期待。

上昇。

欲。

下落。

落胆。

そして再び期待する。

長い道でした。

気がつけば、勉強代では済まなくなっていた

最初は勉強代のつもりでした。

しかし長く相場にいるうちに、投じる金額も大きくなります。

もう笑って済ませられるような額ではなくなっていきました。

そこから予は、嫌でも株を勉強することになります。

決算を見る。

ニュースを見る。

政策を見る。

原発を見る。

電力需給を見る。

市場心理を見る。

出来高を見る。

上昇した時の欲を知る。

下落した時の恐怖を知る。

売る難しさを知る。

待つ苦しさを知る。

そして、

「最高値ですべて売ろう」などという欲が、どれほど人間の判断を狂わせるか

も知りました。

予の投資知識のかなりの部分は、東京電力という銘柄に長年付き合う中で身についたものです。

授業料は、ずいぶん高くつきましたがの。

成功も失敗も、歩いたから得られた

しかし予は、東京電力を買ったことそのものを後悔してはいません。

良い思いもしました。

つらい思いもしました。

欲に目が曇ったこともあります。

売るべきところで売れなかったこともあります。

期待にしがみついたこともあります。

しかし、そのすべてが今の予の投資観につながっています。

もしあの日、

「もっと勉強してからにしよう」

「まだ怖いからやめておこう」

と、いつまでも証券口座すら開かなかったら。

今の予はなかったでしょう。

知識だけなら本から得られます。

しかし、

自分の金が増える喜び。

自分の金が減る恐怖。

売った後にさらに上がる悔しさ。

暴落しても持ち続ける苦しさ。

これは実際に市場へ入らなければ分かりません。

一歩目は小さくてよい

だからといって、最初から大金を投入する必要はありません。

むしろ予は勧めません。

一株でもよい。

百株でもよい。

自分にとって負担にならない額でよい。

まず市場へ足を置いてみる。

すると、それまで見えなかったものが見えてきます。

そして、自分自身のことも見えてきます。

自分は下落に弱いのか。

上昇すると欲が出るのか。

配当が入る方が安心できるのか。

値上がり益を狙う方が楽しいのか。

退屈な株を持ち続けられるのか。

激しい値動きに耐えられるのか。

買った銘柄は、おぬし自身じゃ。

どんな株を選び、どんな時に不安になり、どんな時に欲を出すのか。

株式市場は、ときに自分自身を映す水面にもなります。

千里の行も足下に始まる

投資を始める前から、

「完璧な投資家になってから株を買おう」

などと思う必要はありません。

そんな日は永遠に来ません。

予とて、今でも間違えます。

未来の株価など分かりません。

しかし、最初の一歩を踏み出せば、そこから道が生まれます。

予の場合、その一歩が東京電力でした。

ずいぶん険しい道を選んだものです。

しかし、あの一歩から今日まで道は続いています。

中国では「道」を**道(タオ)**とも読みます。

人それぞれ歩く道は違います。

高配当株を歩む者もいる。

成長株を歩む者もいる。

インデックス投資を歩む者もいる。

短期売買を選ぶ者もいるでしょう。

予の歩いた道を、そなたがそのまま歩く必要はありません。

予には予の道がある。

そなたには、そなたの道がある。

ただし、どの道を歩くにしても。

最初の一歩だけは、自分で踏み出さなければなりません。

子曰く――

千里の行も足下に始まる。

予の長い投資の道も、震災後に東京電力株を買った、その一歩から始まりました。

良きこともあった。

苦しきこともあった。

欲に溺れたこともあった。

迷ったこともあった。

されど、そのすべてが予の歩いてきた道じゃ。

予の道を歩む必要はない。

皆、それぞれの道を歩め。

千里の彼方を眺めておるだけでは、いつまで経ってもそこへは辿り着かぬ。

まずは足下から、一歩じゃ。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本記事は筆者自身の投資経験および投資に対する考え方をまとめたものであり、東京電力ホールディングスその他の特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資には元本割れの可能性があります。投資判断はご自身で行ってください。

NTT明鏡止水の心持を忘れたり

 NTTを買った時、予の水面はかなり濁っていた

NTT(9432)については、予自身かなり反省すべき買い方をしています。

買おうとした当時、肌感覚では、

「少し高すぎるのではないか」

と思っていました。

ところが、

「NTTほどの有名企業なら、そう簡単には潰れないだろう」

「一株あたりの値段も安い」

「配当も悪くない」

「まあいいか」

と、自分に都合のよい理由を次々と並べて買ってしまいました。

今振り返れば、かなり危うい買い方です。

しかも当時はほかの投資もうまくいっていて、少し気が大きくなっていたところもありました。

人間というものは不思議です。

最初に「高いのではないか」と感じているのに、その後から自分が買いたい理由を探し始める。

そして最後には、

「まあNTTだから大丈夫だろう」

となる。

これは企業を見ているようで、実際には企業を見ていません。

予自身の欲や安心したい気持ちを見ていたのです。

老荘の世界には「明鏡止水」という言葉があります。

鏡のように澄み、静かな水面。

水面が大きく波立っていれば、そこに映った景色は歪んで見えます。

投資も同じではないでしょうか。

欲。

恐怖。

過信。

思い込み。

有名企業だからという安心感。

株価が一株百数十円だから安いという錯覚。

そうしたものが心の水面を乱せば、そこに映る企業の姿も、本来の姿とは違って見えてしまいます。

もっとも、水面が完全に止まることなどありません。

風はいつも吹いています。

地からの揺らぎもある。

人間の心が完全に無になることなど、予は目指さなくてもよいと思っています。

わずかにさざめいていてよい。

大切なのは、

その水面が、対象の姿を見失うほど荒れていないこと。

NTTを買った時の予には、それが少し足りなかったのでしょう。

高いと思った。

それなら、なぜ高いと思ったのか。

PERなのか。

配当利回りなのか。

将来成長なのか。

市場の期待が先行しているのか。

本来なら、そこで一度立ち止まるべきでした。

ところが予は、

「まあいいか」

で渡ってしまった。

若気の至りと言うほかありません。

その後、配当を受け取り、長期保有によるdポイント施策も知り、銀行事業まで傘下に入ってきました。

今では、買った時とは別の意味でNTTを保有する理由も見えてきています。

だから面白いのです。

買った理由が悪かったからといって、その後の会社まで悪いわけではない。

そして逆に、

会社が良いからといって、どんな値段で買ってもよいわけでもない。

株価を見る前に、まず己の水面を見る。

あの時の予は、本当に企業を見ていたのか。

それとも、自分が見たいものだけを映していたのか。

子曰く、

濁れる水面に真の姿は映らず。

株を買う前に見るべきものは、株価だけではない。

己の心もまた、見るべき銘柄の一つなのじゃ。

ふぉっふぉっふぉっ。

2026年8月28日金曜日

ティアフォー(593A)がストップ高 中国ロボット100m8.64秒から考える「自動運転の理と気」


2026年8月28日、自動運転関連株が大きく動きました。

中でも目立ったのが、ティアフォー(593A)です。

前営業日比400円高の1,999円。

ストップ高となりました。

きっかけの一つとみられているのが、トヨタ自動車が2028年に、市街地などで手放し運転ができる「レベル2++」の自動運転システムを搭載した乗用車を投入するとの報道です。

ティアフォーは、自動運転システムの量産開発においてトヨタ、いすゞ、スズキなどと関係を持つ会社です。

当然、市場の視線が集まりました。

では、この株価上昇をどう見るか。

今回は朱子学でいう、

「理」と「気」

から考えてみます。

まずティアフォーとは何者なのか

ティアフォーの中心にあるのが、

Autoware(オートウェア)

です。

自動運転用のオープンソースソフトウェアとして世界的に展開されており、ティアフォーはこれを軸に自動運転システムの開発、社会実装、開発支援などを進めています。

事業を見ると、大きく、

  • 自動運転サービスの社会実装支援

  • 自動運転システムの開発支援

  • ソフトウェア・ハードウェアなどのソリューション提供

といった領域があります。

さらに2026年には、AIを使ったレベル4自動運転向けソフトウェアスタックを公開。

NVIDIAとの連携も進めています。

自動運転レベル4向けの量産車載カメラも展開しています。

つまり単に、

「自動運転を研究しています」

という会社ではありません。

ソフトウェア、AI、クラウド、カメラ、開発環境、実証、量産化。

かなり広い範囲に手を伸ばしています。

ここは面白いところです。

しかし決算を見ると猛烈な赤字

一方で、株を見る以上、夢だけを見ているわけにはいきません。

2026年9月期第3四半期累計では、

売上高:約52億円

営業損失:約68億円

となっています。

さらに研究開発費を含む販売費及び一般管理費は約88億円。

通期会社予想でも、

売上高:約85億円

営業損失:約112億円

です。

なかなか壮絶な数字です。

もっとも、先端技術を開発している企業が、商用化より先に巨額の研究開発費を投入すること自体は珍しくありません。

問題は、

その研究開発が将来、本当に利益へ変わるのか。

ここでしょう。

朱子学的に言えば、技術という「理」が存在していたとしても、それが事業として結実するところまで来なければ、株主にとっての価値にはなりません。

それでも自動運転という流れは無視できない

ここで少し日本から離れてみます。

Teslaは現在、「Full Self-Driving(Supervised)」を展開しています。

名前だけを見ると完全自動運転のようですが、現在の仕組みは運転者による監視を必要とし、Tesla自身も完全な自動運転ではないと説明しています。

中国ではBYDが、

God's Eye(天神之眼)

と呼ばれる運転支援システムを広い価格帯へ展開しています。

一部では1万ドルを下回る価格帯の車にも高度な運転支援機能を入れ、自動運転技術を一部の高級車だけのものではなく、大衆車へ広げようとしています。

Teslaだけではありません。

BYD。

中国勢。

日本勢。

そしてティアフォーのような自動運転ソフトウェア企業。

世界中が同じ方向へ資金と技術を投入しています。

これは一企業の流行というより、

自動車そのものの形が変わろうとしている

と見た方がよいのかもしれません。

中国ではロボットが100mを8.64秒で走った

そして数日前、非常に面白いニュースがありました。

中国・北京で開催された世界人形机器人运动会で、ヒューマノイドロボット「Tiangong Ultra」が100メートルを、

8.64秒

で走りました。

人間の100メートル世界記録9.58秒を、数字の上では上回っています。

2025年には21.50秒だったロボットが、わずか一年ほどで8秒台まで来ました。




「2026世界人形机器人运动会:“百米飞人”大战决赛(再破纪录)」】

これは映像で見た方が早いでしょう。

すごい時代になったものです。

もっとも、このロボットは速く走れる一方、走り終えた後には壁へ衝突する場面もありました。

ここに非常に興味深いものがあります。

速く走る能力と、安全に目的地へ到達する能力は同じではない。

これは自動運転にもそのまま当てはまります。

速さは「気」、社会実装は「理」

100メートル8.64秒。

ストップ高1,999円。

どちらも非常に分かりやすい数字です。

人間はこういうものに心を動かされます。

これを予は、

「気」

と見ます。

目に見えて動くもの。

人々を興奮させるもの。

ニュースになるもの。

資金を呼び込むもの。

しかし、ティアフォーを見る時に本当に重要なのは、その下にある「理」でしょう。

安全に自動運転できるのか。

大量の車へ搭載できるのか。

自動車メーカーが採用するのか。

規制を越えられるのか。

事故が起きた時の責任をどう設計するのか。

そして最終的には、

利益を出せるのか。

ロボットが8.64秒で走ったから、明日から人間の代わりになるわけではありません。

ティアフォーの株価がストップ高になったから、明日から営業利益が黒字になるわけでもありません。

気は速い。

理は遅い。

この時間差こそ、株式市場の面白さなのかもしれません。

自動運転という大河

予は昔から、相場を水に似たものだと考えています。

水は一滴から始まります。

やがて小さな流れとなり、支流が集まり、川となる。

さらに多くの水が集まれば、大河となります。

自動運転という技術も、今その途中にあるように見えます。

Teslaが流れる。

BYDが流れる。

トヨタが流れる。

中国のAIとロボット技術が流れる。

NVIDIAが流れる。

そしてティアフォーも、その流れの中にいる。

問題は、

どの支流が最後まで残るのか。

です。

すべての会社が勝つことはありません。

巨大な流れが生まれても、その途中では無数の企業が消えていきます。

逆に、現在は赤字だらけの小さな会社が、十年後には巨大企業になっていることもあります。

未来など誰にも分かりません。

ティアフォーの「理」はまだ完成していない

予がティアフォーを見るなら、

「自動運転という巨大な流れに乗っている、非常に興味深い未完成企業」

くらいでしょうか。

技術はある。

パートナーもいる。

市場も巨大になり得る。

一方で赤字も巨大です。

したがって現時点で、

「絶対に将来有望である」

とも、

「赤字だから駄目である」

とも言い切る必要はないと思います。

まだ途中なのです。

易経とは、そもそも「変化」を見る思想でもあります。

完成したものを見るのではなく、

今、何が何へ変わろうとしているのか。

そこを見る。

ティアフォーもまた、そのような株なのかもしれません。

当たるも八卦、当たらぬも八卦

この先、自動運転市場がどうなるのか。

Teslaが勝つのか。

中国勢が勝つのか。

日本勢が巻き返すのか。

ティアフォーが巨大企業になるのか。

そんなことは予にも分かりません。

分からぬからこそ面白い。

当たるも八卦、当たらぬも八卦。

投資家ができることは、未来を断言することではありません。

今そこにある理を調べる。

流れている気を見る。

そして自分が乗る波を選ぶ。

それだけです。

すべての良い波に乗ることはできません。

だからこそ、

どの波に乗り、どの波を見送るか。

そこに投資家自身が表れるのでしょう。

子曰く

子曰く、速きもの必ずしも遠くへ至らず。

100メートルを8秒で走れても、壁にぶつかってしまっては目的地には着きません。

株価も同じです。

速く上がることと、良い企業になることは同じではない。

されど――。

8秒台で走るロボットを見て、

「未来など何も変わらない」

と言うのも、また違うのでしょう。

水はすでに流れ始めています。

さて、この大河はどこへ向かうのか。

予もしばらく眺めてみるとしましょう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本ブログの「子曰く」は投資哲学を表現した創作箴言です。孔子の実際の発言ではありません。

※本記事は企業分析および筆者個人の投資に対する考え方をまとめたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は最新の決算資料・IR等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。

子曰く双葉電子工業(6986)の急上昇は転機であると

 双葉電子工業が一時798円へ 株価という「気」が動いた時こそ「理」を見る

8月18日、このブログで双葉電子工業(6986)について書きました。

その時、私は双葉電子を、

「復活待ち銘柄」

と表現しました。

財務は非常に強い。

長年積み上げてきた技術もある。

無線制御、サーボ、ドローン、FA、生産設備など、これからの時代につながりそうなものも持っている。

その一方で、本業では営業赤字が続いている。

そこで私は、

「悪い会社ではない。むしろ持っているものはかなり良い。しかし、その資産と技術をどう利益に変えるのかがまだ見えにくい会社」

と考えました。

そして記事を書いてから10日後の8月28日。

双葉電子工業の株価は前場、一時798円まで上昇しました。

かなり大きく動きました。

もちろん、ここで、

「ほら見たことか!」

と言いたいわけではありません。

株価の短期的な上下を当てるために、前回の記事を書いたわけでもありません。

むしろ今回の値動きは、このブログで以前から考えている朱子学の「理」と「気」を考える、なかなか面白い材料になったと思っています。

企業の「理」と株価の「気」

このブログでは、朱子学の「理」と「気」を株式投資にも当てはめて考えています。

簡単に言えば、

理=企業そのものが持っている本質や構造

気=株価、需給、市場心理、人気、恐怖、熱狂

です。

双葉電子について前回の記事で見ていたのは、主に「理」の部分です。

高い自己資本比率。

巨額の純資産。

現預金や投資有価証券。

無線制御技術。

ドローン。

サーボ。

FA・生産設備技術。

政策保有株式の縮減。

Brandes Investment Partnersによる継続的な保有。

そして第1四半期における営業赤字の縮小。

こうしたものは、8月28日に突然生まれたわけではありません。

以前から会社の中に存在していたものです。

それでも株価は毎日変わります。

企業そのものが一晩で別会社になったわけではないのに、ある日突然買われ始める。

反対に、企業そのものには大きな変化がないのに、突然売られることもある。

これが私の考える、

「理は簡単には変わらない。しかし気は激しく動く」

という株式市場の面白さです。

株価が上がったから正しかった、ではない

ここは大切です。

双葉電子の株価が一時798円まで上昇したからといって、前回の記事で考えたことがすべて正しかったことにはなりません。

私は前回、

「これから何で大きく稼ぐ会社になるのかが、まだ分かりにくい」

とも書きました。

この疑問は、株価が上昇したからといって消えません。

営業黒字化できるのか。

持っている技術をどう収益化するのか。

ドローン、FA、無線制御などを成長事業として伸ばせるのか。

豊富な資産をどう効率的に使うのか。

見るべきものは、まだたくさんあります。

株価という「気」が動いた。

だからこそ、もう一度「理」を見る。

私はそのくらいでよいと思っています。

予言するより、そこにあるものを見る

投資をしていると、

「あの株は上がる」

「この株は下がる」

という未来予測に意識が向きがちです。

しかし未来は分かりません。

私にも分かりません。

それより、

今、この会社には何があるのか。

何が足りないのか。

市場は何を評価していないのか。

そこを見る方が、私は好きです。

未来を当てようとするのではなく、今そこにある「理」を見る。

その後、株価という「気」がどう動くのかを眺める。

今回の双葉電子は、その一つの例として面白い動きを見せてくれました。

私は昔から「水」というものが好きです

少し話が変わります。

私は昔から、水というものについてよく考えます。

水は不思議なものです。

普段は柔らかい。

手ですくえば指の間から流れていく。

器を変えれば、その器に合わせて形を変える。

冷えれば氷になり、熱せられれば蒸気になり、やがてまた雨となって地上へ戻ってくる。

池も水。

川も水。

海も水。

そして人間を含め、生命は水なしでは生きられません。

古代の大きな文明が河川の周辺で育ったことを考えても、人間と水は切り離せない存在なのでしょう。

ところが、水は優しいだけではありません。

流れが強くなれば岩を削ります。

勢いをつければ物を切ることさえできます。

穏やかな川も、ひとたび増水すれば人間の力では止められないほどの力を持ちます。

水は優しく、同時に恐ろしい。

私は、この性質が相場にも少し似ているように思うのです。

波とは戦わない

昔から株をやっていて、私は相場とサーフィンは似ているなと思うことがあります。

サーファーは波と戦いません。

巨大な波を自分の力で止めようとする人はいないでしょう。

波の方向を見る。

強さを見る。

来るタイミングを見る。

そして、自分が乗れると思った波に乗る。

すべての良い波に乗ることなどできません。

株も同じです。

世の中には良い会社がたくさんあります。

欲しい株を全部買うこともできません。

では、どの波に乗るのか。

どの波を見送るのか。

そして、いつ波から降りるのか。

そこに投資家自身の考え方が表れるのではないでしょうか。

買った銘柄は、ある意味で自分自身を映しています。

欲。

恐怖。

焦り。

忍耐。

見栄。

自信。

迷い。

相場という水面を見ているつもりで、実はそこに映っている自分自身を見ている。

そんなこともあるのかもしれません。

子曰く、相場は水物といひたり

もちろん孔子が株式市場についてこんなことを言ったわけではありません。

これは、このブログで勝手に作った言葉です。

しかし昔から「相場は水物」と言います。

流れは変わる。

形も変わる。

昨日まで穏やかだったものが、突然大きく動く。

ならば無理に流れと戦うより、まず流れを眺めてみる。

そして流れの表面だけではなく、その下にある「理」を見る。

今回の双葉電子工業も、株価が一時798円まで上昇しました。

気は動きました。

では、理はどうなるのか。

本当に双葉電子の眠っている資産と技術は目を覚ますのか。

私は引き続き、その先を眺めてみたいと思います。

せっかくなので、この文章を世に出すべきか易に問うてみました

出た卦は「艮為山」、変じて「風山漸」。
「騒がず、言葉を慎み、徐々に進め」と読めます。

ここまで書いてきて、ひとつ思いました。

朱子学だ、理だ、気だ。

水だ、波だ、相場は水物だ。

こんなことを延々と語る人間にも、そろそろ呼び名くらいあってもよいでしょう。

そうか。

ならば以後、私――

いな。

予は「マスターJ」と名乗るとしよう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。



※本ブログで使用する「子曰く」等の表現は、投資哲学を表現するための創作箴言を含みます。孔子その他の古典に実在する言葉を引用する場合は、その旨を区別して記載します。

※本記事は企業分析および筆者個人の投資に対する考え方をまとめたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は最新の決算資料・IR等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。

2026年8月18日火曜日

10年で259インプレッションだったブログは、朱子学でどこまで伸びるのか

 


このブログには、誇れる数字があります。

過去10年間のGoogle検索インプレッション、259回。

……少ない。

あまりにも少ない。

10年です。

1年ではありません。

10年間で259回です。

ほとんど伏流水です。

地上からは存在すら確認できません。

そんなブログに、最近私は「朱子学的な考え方を取り入れたNISA」という、よく分からない記事を書きました。

すると、8インプレッションありました。

普通のブログなら誤差でしょう。

しかし、このブログにとっては事件です。

なにしろ10年間で259回しか表示されなかったのですから。

私はそこで思いました。

もしかして、この方向なのではないか。

投資について書いている人はいくらでもいます。

NISAについて書いている人もいくらでもいます。

朱子学について書いている人もいるでしょう。

しかし、

「朱子学の考え方をNISAへ持ち込んでみよう」

と考える人は、少なくともそれほど多くないらしい。

だったら、やってみようではありませんか。

これは壮大な社会実験です。

10年間で259インプレッションしか獲得できなかったブログが、朱子学という謎の武器を手に入れることで、一体どこまで成長するのか。

259が500になるのか。

1,000になるのか。

1万になるのか。

あるいは何事もなく再び地中深くへ沈んでいくのか。

私にも分かりません。

だから面白い。

成功してから成功談を書くのではなく、まだ何者でもない段階から記録しておこうと思います。

これから株式市場を見ながら、

「これは陰陽で説明できるのではないか」

「この銘柄は中庸なのではないか」

「暴落を耐える投資こそ亀の道ではないか」

などと、勝手に朱子学と投資を結びつけていきます。

正しいかどうかより、まず自分自身が面白いと思えることを続けてみたい。

そして、もしこのブログが本当に伸びていったなら。

その時はぜひ、

「259インプレッションの頃から見ていた」

と言ってください。

一緒にこの上昇を味わっていってもらえたら、とても嬉しいです。

まだこのブログは、長い坂を登り始めたばかりです。

日経平均が下がる日に武田薬品は上がる――朱子学っぽく考える「守りのNISA」


2026年8月18日、保有している武田薬品工業の株価を見て少し驚いた。

終値は5,702円。前日比+189円、率にして+3.43%の上昇である。

「何か武田にすごいニュースでも出たのか?」

そう思って調べてみたのだが、今日の急騰をそのまま説明できそうな大きな個別材料は、少なくとも私が調べた範囲では見当たらなかった。

そこで日経平均を見て、なんとなく納得した。

今日はむしろ日本株全体が弱いのである。

原油価格の上昇やインフレ、金利への警戒などから、日本株には売りが出ていた。

そこで思い出した。

武田薬品って、こういうことがある。

日経平均が元気な日は大して動かないのに、日経平均が大きく下がっている日に妙に強かったりする。

医薬品は景気が悪くなったからといって、みんなが薬を飲まなくなる業種ではない。

いわゆる「ディフェンシブ銘柄」である。

そしてこの値動きを見ていたら、以前から考えている「朱子学的NISA」と妙につながって見えた。

白の中には黒があり、黒の中には白がある

中国思想を象徴するものの一つに、太極図がある。

白と黒が渦を巻いた、あの有名な陰陽のマークだ。

白一色でもなければ、黒一色でもない。

陽の中には陰があり、陰の中には陽がある。

私は若い頃、漢文の先生から中国思想について教わった時、この考え方に非常に感銘を受けた。

世の中は水戸黄門のように、

「こちらが善人、こちらが悪人」

と綺麗に二つに分かれているわけではない。

どんな善人にも悪い部分がある。

悪人と呼ばれる人間にも、善い部分がある。

物事はそんな単純ではない。

これは今でも私の人生観の根底にある。

そして株式市場も、案外同じなのではないか。

日経平均の「陰」が武田薬品の「陽」を生む

株を始めたばかりだと、

「日経平均が上がる=良いこと」

「日経平均が下がる=悪いこと」

と考えやすい。

けれど、自分でいろいろな銘柄を持っていると、そんなに単純ではないことに気づく。

市場全体が上がっている時には、半導体や景気敏感株などに資金が向かい、ディフェンシブ株は置いていかれることがある。

反対に、市場が不安定になると、それまで地味だった医薬品などへ資金が向かうことがある。

今日の武田薬品の値動きも、その一例として見ると面白い。

市場全体にとっての陰が、ある銘柄にとっては陽になる。

陰だから悪いのではない。

陽だから良いのでもない。

むしろ陰と陽が存在するから、全体として均衡が取れる。

私は「攻撃は最大の防御」とは思わない

若い頃の私は、ゲームでも何でも攻撃力全振りみたいなものが好きだった。

「攻撃は最大の防御」

という考え方である。

今はむしろ逆だ。

鉄壁の守りこそ最強なのではないか。

どれだけ攻撃力が高くても、一撃食らって死んでしまったら終わりである。

相場でも同じだと思う。

一番上がる株を当て続ける必要はない。

好景気にも不景気にも耐えられる。

暴落が来ても生き残れる。

配当が入り続ける。

ある銘柄が下がった時には、違う性質を持った銘柄が支えてくれる。

そういうポートフォリオの方が私は好きだ。

だから私は亀が好きなのかもしれない

私は昔から亀が好きである。

亀は速くない。

獲物に飛びかかる牙もない。

派手な攻撃力もない。

でも、甲羅がある。

ものすごく地味だが、ひたすら生き残る。

これこそ私が今、投資に求めているものなのかもしれない。

明日の株価を当てる能力より、

何が起きても市場から退場しない能力。

大儲けするための攻撃力より、

暴落しても生活が壊れない防御力。

日経平均が絶好調の時には地味でもいい。

みんなが逃げ始めた時に、甲羅の中で平然としていられればいい。

今日、日経平均とは反対方向に大きく上がった武田薬品を見ながら、そんなことを考えた。

朱子学的NISAとは「最強銘柄探し」ではない

結局、私が考える朱子学的NISAは、

「この銘柄こそ絶対に正しい」

という投資ではないのだと思う。

景気敏感株にも役割がある。

ディフェンシブ株にも役割がある。

値上がり益にも意味がある。

配当にも意味がある。

好景気にも不景気にも、それぞれ違った顔がある。

一方だけを善として、もう一方を悪として切り捨てない。

異なる性質のものを抱えながら、全体として倒れない形を作る。

それが私には一番しっくりくる。

相場に勝とうとするのではない。
相場がどうなっても生き残る。

今日の武田薬品の逆行高は、そんな「亀の投資」を改めて考えさせてくれる値動きだった。

朱子学投資とは何か?「理」と「気」で株式市場を読むための備忘録

 


このブログでは、株式投資を少し変わった角度から考えています。

それが、

「朱子学で株式投資を読む」

という考え方です。

最初から完成された投資理論として始めたわけではありません。

半分は思考実験です。

企業を調べ、株価を見て、実際に売買しながら、

「朱子学の考え方って、意外と株式投資に使えるんじゃないか?」

と考えるようになりました。

私自身も朱子学を完全に理解しているわけではありません。

むしろ記事を書きながら調べ、

「なるほど、そういうことか」

と読者と同じタイミングで学んでいくスタイルです。

この記事は、今後その考え方を忘れないための備忘録として残しておきます。


株価という「気」と、企業に存在する「理」

朱子学には「理」と「気」という重要な考え方があります。

かなり乱暴に株式投資へ置き換えると、私はこう考えています。

理

企業や市場の奥に存在する構造。

例えば、

  • 企業が何によって利益を生んでいるか

  • 財務は健全か

  • 業界に長期需要があるか

  • 競争力はあるか

  • 経営陣が合理的な行動を取っているか

  • その商品やサービスが社会から必要とされているか

  • 産業全体として資金がどこへ向かうべきか

こういった、短期間では大きく変わりにくいものです。

これを私は投資における「理」と考えています。


気

一方の「気」は、もっと動きの激しいものです。

例えば、

  • 株価

  • 出来高

  • 投資家の欲

  • 恐怖

  • 熱狂

  • SNSの話題

  • ニュース

  • 短期的な資金流入

  • 利益確定売り

  • パニック売り

などです。

株価は毎日動きます。

しかし会社の競争力や財務が、一日で全く別物になることは普通ありません。

つまり市場では、

理は比較的ゆっくり動き、気は激しく揺れる

と考えることができます。


「気」に振り回されず「理」を見る

株をやっていると、どうしても株価ばかり見てしまいます。

昨日より50円上がった。

今日は100円下がった。

SNSでは強気の人が増えた。

悪材料が出た。

こうしたものは非常に目立ちます。

しかしそれは多くの場合、「気」の動きです。

重要なのは、

その企業の根本的な「理」まで変わったのか?

と考えることです。

例えば、良い会社の株価が短期的な需給だけで下がっているなら、「気」が乱れているだけかもしれません。

逆に、株価は猛烈に上昇しているのに企業価値がそれほど変わっていないなら、「気」だけが膨張している可能性があります。

この区別ができると、株価に少し振り回されにくくなります。


格物致知=企業を調べること

朱子学には「格物致知」という言葉があります。

物事を一つずつよく調べることで、その背後にある道理を知る。

株式投資との相性が非常にいい考え方だと思っています。

企業を調べる時も同じです。

決算を見る。

IRを見る。

商品を見る。

競合を見る。

市場を見る。

その企業が実際に何をやっているのかを確認する。

一つずつ「物」を調べていくと、

「この会社はなぜ儲かるのか」

あるいは、

「なぜこの会社は儲からないのか」

という構造が見えてきます。

PERやPBRだけを見るより、私はこの方が面白いと思っています。


例えばタウンズをどう見るか

感染症診断薬メーカーのタウンズを例にします。

数字だけを見ると、コロナ特需後の業績悪化が目立ちます。

しかし商品を見ると、

  • 検査時間を短縮

  • 有効期限を大幅延長

  • 在庫リスクを減らす

  • 卸が在庫を持ちやすくする

  • 急な流行時の販売機会を増やす

という商品改良を進めています。

これを見ると、

株価や直近利益という「気」は弱いが、企業が問題を解決しようとしている「理」はそれほど悪くない

という見方ができます。

これが、このブログでやりたい投資の読み方です。


双葉電子はどうか

双葉電子工業の場合は逆に少し難しい。

財務は強い。

技術もある。

資産もある。

ドローン、無線制御、FA、金型など、使えそうな手札もあります。

つまり「理」になり得る素材は豊富です。

しかし、

それを何によって利益へ変えるのか

がまだ明確ではありません。

構造改革という「守り」は進んでいる。

しかし「次に何で稼ぐのか」という理が、まだ十分見えない。

だから投資家として完全には信用しきれない。

こういう判断にも使えます。


株価が上がっているから「理」があるとは限らない

ここは重要です。

株価が上がっていると、その企業には何か素晴らしい理由があるように見えます。

しかし実際には、

  • 流行

  • テーマ

  • SNS

  • 短期資金

  • 踏み上げ

  • 投機

だけで上がる場合もあります。

つまり、

気が強いから理まで正しいとは限らない

ということです。

逆もあります。

株価が下がっているからといって、企業価値まで悪化しているとは限りません。

株式市場では、「気」の動きが「理」から大きく離れる場面があります。

私はそこを探すのが投資の面白さだと思っています。


居敬=浮かれないこと

朱子学には「居敬」という言葉があります。

これも投資に使えそうです。

かなり簡単に言えば、

自分の心を乱さず、姿勢を正して物事に向き合う

という感覚です。

株価が上がると人間は浮かれます。

下がると恐怖を感じます。

そして欲や恐怖が強くなると、判断を誤ります。

以前は600円で売ろうと思っていた株が700円になると、

「800円まで行くかもしれない」

と思います。

800円になると、

「1000円まで行くかもしれない」

と思う。

欲には終わりがありません。

だから投資では、

欲を完全になくすのではなく、欲に判断を乗っ取られない

ことが重要だと思っています。


知るだけではなく、実際に行動する

企業をどれだけ調べても、売買しなければ利益にはなりません。

逆に、考えずに売買だけするとギャンブルになりやすい。

だから、

知る → 判断する → 行動する → 結果を見る → また考える

という循環が必要です。

朱子学的に言えば、知識と実践を完全に切り離さないことが大切なのだと思います。

投資でも同じです。

決算を読んで終わりではない。

自分なら買うのか。

買わないのか。

持ち続けるのか。

売るのか。

そこで初めて、自分の考えが試されます。


市場一身論

ここから少し与太話になります。

私は株式市場そのものを、一つの巨大な生き物のように見ることがあります。

市場には常に資金が流れています。

資金は血液のようなものです。

銀行から半導体へ。

半導体から防衛へ。

防衛から高配当株へ。

ある業界へ資金が集中すれば、別のところから資金が抜けます。

市場全体を一つの身体として考えると、

各業界は臓器であり、企業はその細胞

のようにも見えます。

ある産業が異常に膨張すると、別の部分が弱る。

ショックが発生すると、市場全体が発熱する。

暴落すると資金が一気に安全資産へ逃げる。

この見方を、私は勝手に「市場一身論」と呼んでいます。


個人と市場と世界は入れ子になっている

さらに考えると、

個人の投資家がいて、

企業があり、

市場があり、

国家があり、

世界経済があります。

それぞれ別々に存在しているようで、完全に独立しているわけではありません。

個人の欲や恐怖が市場を作る。

市場の動きが企業を動かす。

企業活動が国家経済を作る。

国家政策が再び個人の投資判断へ戻ってくる。

入れ子のような構造になっています。

このあたりは、もはや株式投資というより哲学の話です。

でも投資を長くやっていると、こういうことを考えるようになります。


「勝つ」より「理から外れない」

株では勝ち負けが非常に分かりやすいです。

利益なら勝ち。

損失なら負け。

しかし一回の売買だけなら、偶然でも勝てます。

逆に、正しい判断をしても短期的には損することがあります。

そこで私は、

「一回勝ったかどうか」より、「理から大きく外れた判断をしていなかったか」

を見る方が重要だと思っています。

分からない株を勢いだけで買わない。

良い会社でも高すぎれば追わない。

悪材料が出ても企業の根本が変わっていなければ慌てない。

欲が出ていると感じたら一度考える。

こういう小さな判断を積み重ねて、市場から退場しない。

長く生き残る方が大事です。


私自身も読者と一緒に学ぶ

この「朱子学投資」は、完成された理論ではありません。

今後企業を調べるたびに、

「これは理と気で考えるとどうなる?」

「格物致知って、こういうことじゃないか?」

と少しずつ考えていきます。

そして面白いのは、

記事を書く前の私は、その結論をまだ知らない

ということです。

企業を調べ、朱子学の考え方と照らし合わせ、記事が完成する。

その瞬間に、

私も読者も初めてその考え方を読むことになります。

つまり著者自身も、記事という「観測」が行われるまで答えを知らない。

少し量子力学の思考実験みたいで面白い。

もちろん物理学として正しい話をしているわけではありません。

あくまで遊びです。

でもこのブログでは、

最初から答えを知っている先生が教えるのではなく、投資経験のある人間が読者と一緒に考えていく

というスタイルでやっていきたいと思っています。


まとめ|朱子学投資の基本ルール

今のところ、私の「朱子学投資」はこんな感じです。

理
企業価値、財務、競争力、需要、産業構造など、株価の奥にあるものを見る。

気
株価、出来高、熱狂、欲、恐怖など、短期的に激しく動くものを見る。

格物致知
IR、決算、商品、業界を実際に調べる。

居敬
値上がりで浮かれず、値下がりで恐慌状態にならない。

実践
考えたことを実際の売買判断につなげる。

市場一身論
市場全体を資金が循環する一つの巨大な生命体として考える。

そして一番大切なのは、

「自分は全部分かっている」と思わないこと。

企業を一つ調べるたびに、自分の考えも変わります。

このブログでは、その変化も含めて記録していきます。

数年後にこの記事を読み返して、

「昔の俺、こんなこと言ってたのか」

と笑っているかもしれません。

それもまた投資の面白さだと思っています。

※本記事の「朱子学投資」は、朱子学の学術的な解説を目的としたものではありません。古典思想の概念を株式投資へ自由に当てはめた、筆者個人の思考実験・投資哲学です。

キオクシア株には手を出すな?初心者が生き残りたいなら避けたい理由

 


今回は少し刺激的なタイトルにしました。

キオクシアホールディングス(285A)についてです。

最初に言っておくと、私はキオクシアが悪い会社だとは思っていません。

むしろ現在の業績は強く、AI向けデータセンター需要の拡大によってNANDフラッシュメモリ市場も非常に注目されています。

それでも私は、

株式投資を始めたばかりの人には、キオクシア株へ安易に手を出してほしくない

と思っています。

理由は単純です。

値動きが激しすぎるからです。


キオクシアは今、非常に強い会社

キオクシアはNANDフラッシュメモリの世界的大手です。

AIというとGPUやHBMが注目されがちですが、大量のデータを保存するためにはNANDやSSDも必要になります。

生成AIの普及によってデータセンター向けストレージ需要が拡大し、キオクシアの業績も大きく改善しています。

2026年には次世代BiCS Flashのサンプル出荷も開始するなど、技術開発も進んでいます。

つまり、

「業績が悪いから危険」

という銘柄ではありません。

むしろ逆です。

会社が非常に強いからこそ、多くの投資家が殺到しています。


それでも私は買わない

私はキオクシア株を買うつもりはありません。

株式投資では、

良い会社=買ってよい株

とは限らないからです。

会社が素晴らしくても、株価が激しく動けば投資家側が耐えられません。

キオクシアのチャートを見ると、短期間で猛烈に上昇したかと思えば、一気に暴落し、その後また急反発する場面があります。

こういう株は見ていると非常に魅力的です。

「下がったところで買えば儲かるのでは?」

「これだけ上がっているならまだ上がるのでは?」

と思います。

ここが危ないところです。


初心者が最も危険なのは「上がっている株」

投資初心者は、下がっている株より上がっている株に引き寄せられます。

毎日上昇している。

SNSでも話題になっている。

ニュースでも取り上げられる。

すると、

「こんなに上がっているなら自分も乗らなければ損だ」

と思い始めます。

しかし株価が急激に上昇しているということは、それだけ期待も株価へ織り込まれているということです。

そして期待が少しでも崩れると、売りも一気に出ます。

キオクシアでは実際に、短期間で非常に大きな下落が発生しています。


上がるか下がるかではなく「読めない」

ここが今回一番言いたいことです。

私は、

キオクシア株はこれから下がる

と言いたいわけではありません。

さらに上がる可能性も普通にあります。

AI需要が続けば、業績がさらに伸びる可能性もあります。

問題は、

私には短期的な値動きを読めない

ということです。

そして読めないものに無理に参加する必要はありません。


株で生き残るには「分からないものを買わない」

株式投資で重要なのは、一発で大金を稼ぐことではないと思っています。

最も重要なのは、

市場から退場しないこと

です。

例えば100万円を持っている人が50%損をすると50万円になります。

50万円を100万円へ戻すためには、今度は100%上昇させなければなりません。

大きな損失は、それだけ取り返すのが難しくなります。

だから私は、

利益を取り逃すことより、大きな損失を避けること

を重視しています。


「買わなかったら上がった」は損ではない

株をやっていると、これが非常に重要です。

自分が買わなかった株が2倍になった。

3倍になった。

10倍になった。

すると、

「買っておけばよかった」

と思います。

でも実際には一円も損していません。

利益を取り逃しただけです。

一方、買って暴落すれば、本当に資産が減ります。

この二つは全く違います。


キオクシアのような株は上級者向けだと思う

キオクシアは、

  • 半導体市況

  • NAND価格

  • AI投資

  • 世界的な設備投資

  • 為替

  • 競合メーカーの増産

  • 市場参加者の期待

など、非常に多くの要素で株価が動きます。

しかも現在は注目度が非常に高い。

こういう株は、短期間に莫大な利益を出せる可能性があります。

同時に、短期間で大きく資産を減らす可能性もあります。

自分で値動きを理解し、損切り基準を持ち、ポジションサイズを管理できる人なら面白いでしょう。

しかし、

「最近上がっているから買う」

という理由だけで初心者が入るのはおすすめしません。


私ならもっと簡単な株を探す

市場には何千もの銘柄があります。

わざわざ自分が理解できない株を買わなくてもいいのです。

例えば私は、

  • 配当がある

  • 本業で利益を出している

  • 財務が健全

  • 何で儲けている会社なのか理解できる

  • 長期的な需要が見込める

  • 株価が下がっても持つ理由がある

といった企業を好みます。

そういう株なら、一時的に株価が下がっても落ち着いて待てます。

キオクシアのように一日に大きく動く株を毎日見続ける必要もありません。


一番怖いのは「一度勝ってしまうこと」

こういう値動きの激しい株で一番怖いのは、最初に利益を出してしまうことかもしれません。

例えば50万円買って、数日で10万円儲かった。

すると、

「株って簡単じゃん」

と思います。

次は100万円。

その次は200万円。

そして一度大きな暴落を食らう。

これは株でよくある失敗パターンです。

最初の成功が、その後の大きな失敗につながることがあります。


株は儲けるゲームである前に生き残るゲーム

派手な銘柄を当てれば、SNSでは自慢できます。

しかし投資の最終目的はSNSで自慢することではありません。

資産を増やすことです。

そのためには、

勝てそうな時だけ参加する

くらいでいいと思っています。

分からない株は買わない。

難しい株も買わない。

自分が理解できる会社だけを買う。

これだけでもかなり事故を減らせます。


まとめ

キオクシアは悪い会社ではありません。

AI需要という強力な追い風もあります。

NANDフラッシュメモリの世界的大手であり、技術力もあります。

だから株価がさらに上昇する可能性も十分あります。

それでも私は買いません。

理由は、

自分にとって値動きが激しすぎて、リスクを読み切れないからです。

株式投資では、すべてのチャンスを取る必要はありません。

100回チャンスがあれば、そのうち自分が分かる10回だけ参加すればいい。

特に初心者は、

「いくら儲けられるか」より「どうすれば退場しないか」

を考えた方がいいと思います。

キオクシア株が今後10万円になったとしても、それはそれ。

自分が理解できない勝負を見送ったことを後悔する必要はありません。

市場は明日も開きます。

次のチャンスはいくらでもあります。

※本記事は特定銘柄の将来株価を予測するものではありません。また、キオクシア株の売却を推奨するものでもありません。筆者個人の投資方針・リスク管理についてまとめたものです。

10年持った東京電力株をついに全売却|昔の記事を読み返して分かった投資家としての成長

 


2026年、長年持ち続けていた東京電力ホールディングス(9501)の株をすべて売却しました。

売却したのは、株価が年初来高値となる760円前後まで上昇したタイミングです。

東京電力HDは2026年1月6日に年初来高値760円を付けました。

結果だけ見れば、かなり良いところで売ることができました。

しかしここまで来るのに、実に長い時間がかかっています。

東京電力株について自分の昔のブログを読み返していたら、2016年の記事が残っていました。

そこにはこんなことを書いていました。

上がったと思ったらすかさず下がるというのは、この株は信用がない株だという事だと思う。

配当もなく、少し調子よく上がると目先の利益を確保するためにみんな売ってしまう。

600円に行ったら売ろうと思っている。

500円には一度は確実に戻すと踏んでいる。

今読むと、なかなか面白いです。

当時の株価は400円台。

「600円まで戻れば売りたい」

と考えていました。

それから約10年。

東京電力株は何度も火を噴きました。

そして私は、そのたびに売る機会がありながら、結局長い間持ち続けることになりました。


東京電力株は何度も突然上がった

東京電力HDという株は、ずっと低迷しているだけの株ではありません。

原発再稼働期待、電力料金、エネルギー価格、政策、政治など、何か材料が出ると突然大きく上昇します。

長く持っていると、

「今度こそ本格的に上がるのでは?」

と思わせる瞬間が何度もあります。

これがこの株の怖いところでした。

2016年の記事では600円で売るつもりだった私も、その後実際に株価が上昇すると、だんだん欲が出てきます。


最大の痛恨は2024年

一番悔しかったのは2024年です。

東京電力HDは2024年4月に1,114.5円まで上昇しました。

1,100円を超えています。

当時私は、

「まだ上がるかもしれない」

と思って売りませんでした。

今振り返れば、これはかなり痛い判断でした。

その後株価はどんどん下落。

2025年2月には371.1円まで下がっています。

1,114.5円から371.1円。

高値から約3分の1です。

さすがにこれは痛かった。

「あの時売っておけば」

と何度思ったか分かりません。


それでも損切りせず持ち続けた

それでも私は東京電力株を売りませんでした。

今なら、

「なぜそんな株をずっと持っていたのか」

と思う人もいるでしょう。

理由はいくつかあります。

一つは、東京電力という会社自体が簡単になくなるとは考えていなかったこと。

もう一つは、東京電力株は何か材料があると突然大きく上昇することを、長年見て知っていたからです。

そして何より、

一度はまた500円、600円台まで戻る場面があるだろう

という感覚がありました。

2016年の記事にも、

「500円には一度は確実に戻す」

と書いています。

この考えだけは、10年経っても変わりませんでした。


2026年、ついに760円で全売却

そして2026年。

東京電力株は再び上昇しました。

1月6日には年初来高値760円。

そこで私は、持っていた東京電力株をすべて売却しました。

2024年に1,100円を超えた時と比べれば安いです。

それでも今回は、

「もっと上がるかもしれない」

という欲を抑えました。

ここが昔の自分との一番大きな違いだったと思います。


「もっと上がる」は危険な言葉

株をやっていると、

「もう少し上がるかもしれない」

という気持ちが必ず出ます。

500円になる。

600円になる。

700円になる。

すると、

「800円まで行くかもしれない」

と思う。

800円になれば、

「1,000円になるかもしれない」

と思う。

実際、東京電力株は2024年に1,100円を超えました。

それを一度経験すると、次も同じことが起きると思ってしまいます。

しかし株価は過去の高値に戻る義務などありません。

2024年の1,114.5円から翌年には371.1円まで落ちた事実が、それを嫌というほど教えてくれました。


配当のない株を長期保有する難しさ

2016年の記事を読み返して、自分でも驚いたことがあります。

当時すでに、

「配当がない株は信用されにくい」

と書いていました。

これは今でもかなり重要な考え方だと思っています。

配当株なら、株価が下がっても、

「配当をもらいながら待てばいい」

という理由があります。

しかし無配株は違います。

株価が上がらなければ、持っている意味がほとんどありません。

そのため少し上昇すると、

「今のうちに利益を確定しよう」

と考える人が増えます。

結果として売りが出やすくなります。

東京電力株を10年近く持って、私はこの違いをかなり強く実感しました。


昔の私は「株価」を見ていた

2016年の記事では、

「500円になる」

「600円になったら売る」

と株価そのものをかなり気にしています。

これは今読むと、若い投資判断だったと思います。

現在は少し考え方が変わりました。

見るのは、

  • 会社が利益を出しているか

  • 配当があるか

  • 財務はどうか

  • 業界の中で必要とされる会社か

  • 経営陣が具体的な手を打っているか

  • 株価上昇の理由に持続性があるか

といった部分です。

「この株は○○円になるはず」

という予想に執着することは以前よりかなり減りました。


一番大きく変わったのは「売れるようになったこと」

投資を始めた頃は、

買うことより売ることの方が難しい

とは思っていませんでした。

しかし実際には売る方が圧倒的に難しい。

含み損なら、

「戻るまで待とう」

と思います。

含み益なら、

「もっと上がるかもしれない」

と思います。

結局どちらでも売れません。

2024年の1,114.5円を逃したのも、この心理だったと思います。

今回760円で全部売れたのは、

「最高値を取らなくてもいい」

と思えるようになったからです。

後から800円、900円になっても仕方がない。

自分が十分だと思うところで利益を確定する。

この考え方を持てるようになったことが、私にとって一番大きな成長かもしれません。


売った後、株価は再び500円台へ

2026年8月現在、東京電力HDの株価は再び500円台です。

年初来高値760円から200円以上下がっています。

だから結果論ではありますが、今回の売却はかなり良い判断でした。

もちろん760円が今後永久に超えられないとは思っていません。

東京電力株は、これまでも何度も突然上昇してきた株です。

また原発や政策の材料で火を噴くことはあるでしょう。

それでも私は、もう買い戻す予定はありません。


東京電力株から卒業する

長い間持っていた株を全部売ると、少し不思議な気分になります。

東京電力株にはかなり振り回されました。

400円。

500円。

600円。

そして1,100円。

そこから300円台。

また760円。

本当に上下の激しい株でした。

利益だけを考えれば、2024年に1,100円台で売るのが最高でした。

それができなかったのは失敗です。

しかし、その失敗があったから2026年の760円では欲を出さずに売れたとも思います。

そう考えると、10年近く持っていたことにも意味はありました。


まとめ|利益以上に「売る技術」を学んだ株だった

2016年の自分は、

「600円になったら売る」

と書いていました。

その後、本当に600円を超えました。

それどころか2024年には1,114.5円まで上昇しました。

それでも売れませんでした。

そして371.1円まで下落。

最終的に2026年、760円付近で全株売却しました。

この10年間で一番学んだことは、

株は高値を当てるゲームではない

ということです。

十分な利益が出たと思ったら売る。

売った後さらに上がっても気にしない。

利益を確定して初めて、その投資は終わります。

昔の自分の記事を読み返すと、考え方の変化がよく分かります。

東京電力株は、私にとって儲けさせてくれた株という以上に、

投資家として「欲」と「出口」を学ばせてくれた株

だったのかもしれません。

10年近くの付き合いでしたが、これで東京電力株から卒業します。

お疲れさまでした。

※株価は過去の市場データを参照しています。本記事は筆者個人の売買記録・投資経験をまとめたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

双葉電子工業(6986)は復活するのか?超健全財務と技術力、そして「次の一手」を考える

 


今回は双葉電子工業(6986)について考えてみます。

双葉電子工業という会社は、投資対象として見るとなかなか評価が難しい会社です。

財務は非常に強い。

長年培ってきた技術もある。

産業用ラジコン、ドローン、サーボ、金型関連、有機EL、電子部品など、面白そうな事業もいくつも持っています。会社概要でも、電子機器、生産器材、ロボティクス、有機EL、産業用ラジコンなど幅広い製品群を展開しています。

それなのに業績を見ると、なかなか利益が出ません。

個人的には、

「悪い会社ではない。むしろ持っているものはかなり良い。でも、その資産と技術をどう利益に変えるのかがまだ見えにくい会社」

という印象を持っています。


双葉電子工業とは?

双葉電子工業は1948年設立の老舗電子機器メーカーです。

現在の主な事業は大きく、

  • 電子機器

  • 生産器材

の2分野に分かれています。

製品を見ると非常に幅広く、

  • 産業用ラジコン

  • ホビー用ラジコン

  • 産業用ドローン

  • 産業用サーボ

  • 複合モジュール

  • 有機ELディスプレイ

  • 金型用器材

  • プレート製品

  • 成形・生産合理化機器

  • 工作機械IoTシステム

などがあります。

こうして並べると、

「意外と今の時代に使えそうな技術をたくさん持っている会社だな」

と思います。

ロボット、自動化、ドローン、FA、生産設備など、今後需要が増えそうな分野と接点があります。


ところが業績は長く苦戦している

問題は利益です。

2026年3月期は売上高429億8,200万円に対して、営業損失22億8,000万円。

売上高は前期比10.7%減少しました。最終損益は固定資産売却益などによって25億2,200万円の黒字でしたが、本業である営業段階では赤字です。

つまり、

「資産はある。でも本業で稼げていない」

という状態が続いています。

株式投資では、ここが一番気になるところでしょう。


2027年3月期1Qは少し雰囲気が変わった

一方、2026年8月7日に発表された2027年3月期第1四半期決算には、改善も見られました。

売上高は前年同期比4.1%増の108億4,100万円。

営業損失は前年同期の6億400万円から、3億3,500万円へ縮小しました。

経常損益については、前年同期の9億5,000万円の赤字から、1億6,800万円の黒字へ転換しています。

営業赤字なので、まだ「復活した」と言える段階ではありません。

それでも、

赤字幅がかなり縮小している

ことは見ておきたいポイントです。

特に電子機器部門は、産業用・ホビー用ラジコン機器やEMSが伸び、売上高が前年同期比19.5%増の42億3,400万円となりました。

電子機器部門の損失も前年同期より縮小しています。

少なくとも、本業がさらに悪化し続けているという決算ではありません。


最終赤字14億円は少し特殊

第1四半期では親会社株主に帰属する純損失が14億4,700万円となりました。

数字だけ見るとかなり悪く見えます。

しかし主因は、ライセンスおよび役務提供契約に関する約14億9,100万円の特別損失です。

そのため、

本業の営業損失は改善している一方で、一時的な特別損失によって最終赤字が大きくなった

という、少し複雑な決算になっています。

ここは最終利益の数字だけでは判断しにくいところです。


双葉電子最大の魅力は「異常に強い財務」

双葉電子を見ていて最も驚くのは財務です。

2027年3月期第1四半期末の総資産は約1,107億円、純資産は約946億円。

自己資本比率は85%前後という非常に高い水準です。

さらに現金・預金や投資有価証券もかなり保有しています。

普通なら営業赤字が続く会社は、

「資金繰りは大丈夫なのか?」

という心配が出てきます。

双葉電子の場合、その心配は相対的に小さい。

ここがこの会社の面白いところです。

弱い会社なのではなく、「強い財務を持っているのに利益を生み出せていない会社」

なのです。


Brandesが保有比率を9.98%まで引き上げた

もう一つ面白い材料があります。

米国の投資運用会社Brandes Investment Partnersは、双葉電子株を継続的に買い増しています。

2026年7月21日に提出された変更報告書によると、保有割合は従来の8.80%から**9.98%**へ上昇しました。保有株数は423万5,000株です。

Brandesの報告上の保有目的は、顧客に代わって行う「投資目的」です。

5%台だった2022年から段階的に保有比率を引き上げ、現在は約10%まで来ています。

これはかなり大きな比率です。

もちろん、

「海外投資家が買っているから株価が必ず上がる」

わけではありません。

それでも、世界の銘柄を選べる運用会社が、長期間かけて双葉電子の保有割合を増やしているのは興味深い材料だと思います。


なぜBrandesは双葉電子を買うのか?

ここからは私自身の推測になります。

一番分かりやすい理由は、

資産価値に対して企業価値が低いと見ている

のではないでしょうか。

双葉電子は、

  • 巨額の純資産

  • 現預金

  • 投資有価証券

  • 不動産

  • 長年蓄積された製造技術

  • ラジコン・無線制御技術

  • 金型・FA技術

などを持っています。

それなのに本業が赤字なので、市場から高い評価を受けていません。

逆に言えば、

本業が少し黒字化するだけでも評価が大きく変わる可能性がある

とも考えられます。


政策保有株も縮減へ

会社側も何もしていないわけではありません。

2026年6月には政策保有株式の縮減方針を公表し、保有株式の売却に伴う特別利益を計上する見込みを発表しました。

またグループ経営基盤強化のため、基幹システム刷新も進めています。

不採算事業や資産を抱えたまま何もしない会社から、

資産効率や経営効率を改善しようとする会社

には少しずつ変わっているように見えます。


私が双葉電子に物足りなさを感じるところ

ここまで書くとかなり魅力的な会社に見えます。

しかし私は、双葉電子をまだ全面的には評価していません。

理由は単純です。

「これから何で大きく稼ぐ会社になるのか」がまだ分かりにくいからです。

構造改革、不採算事業整理、固定費削減、政策保有株縮減。

こういった施策は重要です。

しかしそれは基本的に「守り」です。

投資家として知りたいのは、その次です。


ドローン事業はもっと伸ばせないのか?

双葉電子は産業用ドローンや無線通信技術をすでに持っています。

今後、物流、農業、測量、インフラ点検、災害対応、防衛などでドローン需要が拡大する可能性があります。

しかも双葉電子は、単にドローン機体を作るだけの会社ではありません。

長年培った、

無線制御+サーボ+産業機器

という技術があります。

これはかなり面白い組み合わせだと思います。

個人的には、この分野をもっと大きな事業として育ててもよいのではないかと感じています。


生産設備関連にも可能性はある

双葉電子は金型用器材、成形関連機器、工作機械IoTなど、生産現場向けの技術も保有しています。

日本では人手不足が進み、製造業では省人化・自動化投資が続いています。

双葉電子自身もFA市場の成長やスマートファクトリー化を意識し、設備部品の見積・発注をオンライン化する「FO Plus」などを進めています。

このあたりを、

単なる部品供給から、生産現場全体の合理化ソリューションへ

持っていけるかは注目したいところです。


ペロブスカイト関連へ展開する余地は?

これは会社が具体的に発表している話ではなく、完全に個人的なアイデアです。

双葉電子が持つ生産設備・金型・電子部品などの技術を見ると、今後拡大する新産業向けの製造設備や検査装置へ展開する余地もあるのではないかと思っています。

例えば現在、日本で量産化が始まりつつあるペロブスカイト太陽電池。

太陽電池そのものを作る必要はありません。

製造装置、加工、検査、搬送など、周辺設備にも市場が生まれます。

双葉電子のような会社には、

既存技術を新しい巨大産業へ横展開する

という攻め方を期待したくなります。


株価は底値圏から少しずつ戻している

双葉電子株は2026年5月に828円まで上昇した後、6月には527円まで下落しました。

その後は500円台後半まで戻しており、8月18日前場は563円となっています。

まだ派手な上昇トレンドとは言えません。

しかしBrandesの買い増しや本業の赤字縮小もあり、安値圏から少しずつ評価を戻しているようにも見えます。


双葉電子は「復活待ち銘柄」

私が現在の双葉電子を一言で表すなら、

「復活待ち銘柄」

です。

今すぐ高成長企業として買う会社ではないと思っています。

営業赤字はまだ続いています。

一方で、

  • 自己資本比率85%前後

  • 巨額の純資産

  • 現預金・有価証券

  • 無線制御技術

  • ドローン

  • サーボ

  • FA・生産設備技術

  • 政策保有株縮減

  • Brandesによる9.98%保有

  • 第1四半期の営業赤字縮小

という材料があります。

会社そのものが弱いというより、

「持っているものを利益に変える能力」が問われている会社

だと思います。


まとめ

双葉電子工業は、かなり不思議な会社です。

財務は強い。

技術もある。

資産もある。

世界的な投資運用会社も株式を約10%保有している。

それでも本業は赤字です。

だから現在の株価が安いとも言えます。

今後見るべきなのは、

「赤字を減らせるか」ではなく、その先に「何で稼ぐ会社になるのか」を示せるか

だと思っています。

第1四半期では営業赤字が前年同期の約6億円から約3.4億円へ縮小しました。

ここから営業黒字化まで持っていけるのか。

さらにドローン、ロボティクス、FAなどの技術を新しい成長事業へ変えられるのか。

双葉電子は、

完成された優良株を買う投資ではなく、「眠っている資産と技術が目を覚ますか」を見る投資

という位置づけが面白い銘柄ではないでしょうか。

個人的には、今後も決算とBrandesの動きを追いかけてみたい会社です。

※本記事は企業分析および筆者個人の投資検討をまとめたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は最新の決算資料・IR等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。

タウンズ(197A)は買いか?コロナ特需後でも注目したい診断薬メーカー

 


感染症の流行というのは、非常に予測しにくいものです。

コロナやインフルエンザが突然流行すると、医療機関から診断キットの注文が一気に増えます。

メーカーや医薬品卸は急いで在庫を確保しますが、流行が突然終わることもあります。

すると今度は大量の在庫が余ります。

しかも体外診断用医薬品には有効期限があります。

この「需要が突然爆発し、突然消える」という特徴は、感染症診断薬ビジネスの大きな難しさだと思います。

そんな中で個人的に面白いと思っているのが、感染症迅速診断キット大手の**タウンズ(197A)**です。

タウンズは1987年創業の体外診断用医薬品メーカーで、インフルエンザ、新型コロナ、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ノロウイルスなど幅広い感染症向け迅速診断キットを開発・製造・販売しています。会社自身も感染症迅速診断キットの最大手企業の一社と説明しています。

コロナ特需終了後は業績面で苦戦していますが、会社の動きを見ていると「何もしていない会社」には見えません。

むしろ、診断薬ビジネスの弱点をかなり理解して商品改良を進めているように感じます。


感染症診断薬は「在庫」が難しい

診断薬という商品は少し特殊です。

インフルエンザなどが流行すれば、一つの地域だけでも急激に注文が増えることがあります。

ところが感染が落ち着けば、需要も急速に減ります。

メーカー側からすると、

在庫を少なくする
→ 流行時に品切れする

大量に生産する
→ 流行終了後に在庫が余る

という難しい判断を迫られます。

卸や医療機関も同じです。

前シーズンに大量在庫を抱えて痛い目を見ると、翌年から在庫を極力持たなくなります。

すると今度は、突然患者が増えた時に、

「診断キットがない」

という状態になります。

さらに需要が急増するとメーカー側が出荷制限を行う場合もあり、過去の販売実績などによって配分されることもあります。

必要な患者がいるのに商品がない。

これは医療現場の問題であると同時に、メーカーや卸にとっては販売機会の損失でもあります。


タウンズの新製品は「有効期限22か月」

ここで注目したいのが、2026年8月にタウンズが発表した新型コロナ・インフルエンザ同時抗原検査キット、

「イムノエース SARS-CoV-2/Flu Ⅱ」

です。

同製品は2026年7月31日に国内製造販売承認を取得しました。

従来製品から大きく改善された点が二つあります。

まず判定時間。

従来は15分でしたが、新製品では10分へ短縮されました。

そしてもっと面白いのが有効期間です。

従来は製造後12か月だったものが、新製品では22か月へ大幅に延長されています。

これはかなり大きな改良だと思います。


有効期限延長は「廃棄ロス削減」だけではない

有効期限が長くなると、まず思いつくのは廃棄削減です。

もちろんそれも重要です。

しかし投資家目線では、それ以上の意味があると考えています。

例えばインフルエンザシーズンに大量の検査キットを仕入れたとします。

シーズンが早く終わって在庫が余っても、12か月しか期限がなければ次の流行期には使いにくくなる可能性があります。

ところが22か月あれば、

「今シーズンで余っても次のシーズンまで持っておけばよい」

と考えやすくなります。

すると卸や医療機関も、在庫を以前より積極的に持てるようになります。

これは非常に重要です。

在庫を持てるということは、

突然注文が入った時にすぐ売れる

ということだからです。

つまり有効期限延長は単なるコスト削減ではなく、

販売機会そのものを増やす可能性がある

ということです。


メーカー・卸・医療機関すべてにメリット

有効期限22か月、判定時間10分という改良をそれぞれの立場から考えてみます。

メーカー

流行終了後の在庫廃棄リスクを抑えやすくなる。

極端な増産と減産を繰り返す必要も減らせる可能性があります。

医薬品卸

「余ったらどうしよう」という不安が減るため、営業所などに在庫を置きやすくなります。

その結果、突然の注文に対応しやすくなります。

医療機関

必要な時に製品を確保しやすくなるうえ、判定時間短縮によって診療効率も改善します。

15分が10分になるだけと思うかもしれません。

しかし一日に何十人も検査する医療機関では、5分の差が積み重なります。

患者側にとっても結果を待つ時間が短くなります。

つまり今回の製品改良は、

メーカー
+卸
+医療機関
+患者

すべてにメリットがある改良です。

こういう商品改良を見ると、少なくともタウンズは現場で何が問題になるのかをかなり考えている会社だと感じます。


診断薬ビジネスそのものも面白い

個人的には、医薬品の中でも診断薬は面白いビジネスだと思っています。

治療薬は基本的に病気になった人が使います。

診断薬は、

「もしかしたら病気かもしれない」

という段階で使われます。

検査結果が陰性でも、検査キット一回分の需要は発生します。

しかも感染症の場合、

  • 本人

  • 家族

  • 学校

  • 職場

  • 高齢者施設

  • 医療機関

など非常に広い範囲で検査需要が発生します。

流行が大きくなれば、一人が複数回検査を受けるケースもあります。

もちろん感染症が流行しなければ売上は減ります。

逆に言えば、新しい感染症が出てくれば新しい市場が生まれる可能性もあります。

タウンズは現在の感染症領域だけでなく、慢性疾患や新しいPOCT、SaMD、受託検査などへ事業領域を広げる方針を示しています。


コロナ特需終了後の業績悪化は無視できない

もちろん良いところだけを見るのは危険です。

タウンズはコロナ禍で大きな需要を取り込みました。

その反動で、現在は新型コロナ関連製品の販売減少や流通在庫調整の影響を受けています。

感染症診断薬はどうしても流行状況によって業績が振れます。

つまり、

「感染症診断薬だから安定成長する」

という会社ではありません。

ここは投資するなら理解しておく必要があります。

一方で今回の有効期限延長は、まさにこの「需要変動による在庫問題」を小さくするための一つの回答にも見えます。

会社が自分の事業の弱点を理解して、それに対する商品を作っている。

私はこういう企業を比較的信用しやすいです。


新しい中期経営計画もかなり積極的

タウンズは2026年7月に中期経営計画を更新しています。

会社は抗原検査のラインナップ強化に加えて、

  • 新規POCT

  • SaMD

  • 受託検査

などを新しい収益源として育てる方針です。

計画上では2026年6月期から2031年6月期に向けて売上成長を目指しています。

つまり会社自身も、

「コロナ診断薬一本で将来も稼ぐ」

とは考えていません。

既存の感染症迅速診断キットを土台にしながら、新しい検査領域へ広げていこうとしています。

ここも評価したいところです。


配当も29円を起点とする累進配当へ

タウンズは株主還元にも比較的積極的です。

2027年6月期から2031年6月期までの中期経営計画期間では、

1株29円を起点とする累進配当

を導入しています。

累進配当とは、基本的に配当を減らさず、維持または増配していく方針です。

さらに会社は市場環境などを見ながら自社株買いも検討するとしています。

成長株でありながら配当もある。

これはNISAで長期保有する候補としては悪くありません。


タウンズのリスク

もちろんリスクもあります。

感染症流行に業績が左右される

コロナ特需の反動がその典型です。

新製品が売れるとは限らない

22か月の有効期限や判定時間短縮は優れていますが、競合製品との価格差や営業力も重要です。

新規事業が計画通り育つ保証はない

POCT、SaMD、受託検査などへの展開は魅力的ですが、投資先行になる可能性もあります。

大株主の売却

上場前から投資しているファンド系大株主が大きな持分を持っているため、将来的な株式売却が株価の上値を抑える可能性もあります。

ここは長期投資するなら意識しておきたい部分です。


それでもタウンズは「悪くない会社」だと思う

タウンズは現在、コロナ特需が終わって一見すると勢いを失った企業に見えます。

しかし会社の動きを見ると、

有効期限を12か月から22か月へ延長
判定時間を15分から10分へ短縮
感染症以外の診断領域へ拡大
新規POCT・SaMD・受託検査を育成
累進配当を導入

と、やるべきことはかなりやっています。

特に私は有効期限22か月という改良を高く評価しています。

これは単なる製品スペックではありません。

感染症診断薬ビジネスで長年問題になってきた、

「突然売れる。しかし突然売れなくなる」

という在庫リスクに直接効くからです。

卸が安心して在庫を持てれば、その分だけ突然の注文に対応できます。

結果としてメーカーにとっても販売機会が増えます。

こういう地味だけれど商売の本質に効く改良をする会社は、長期的に見ても面白いと思います。


まとめ

タウンズを一言で表すなら、

「コロナ特需で終わった会社ではなく、特需後の診断薬ビジネスを作り直している会社」

だと思います。

現在の業績だけを見ると魅力が分かりにくい銘柄です。

しかし、

  • 感染症迅速診断キット大手

  • 商品改良能力

  • 長期保存化

  • 判定時間短縮

  • 新規診断領域への進出

  • 累進配当

まで見ると、私は投資候補として十分検討する価値がある会社だと思っています。

少なくとも、

「株価が下がっているからダメな会社」

とは見ていません。

むしろ業績が悪い時期に会社が何をしているのかを見ると、その企業の実力が分かることがあります。

タウンズについては、今後の新製品販売と中期経営計画の進捗を追っていきたい銘柄です。

※本記事は筆者個人の投資検討・企業分析をまとめたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は最新の決算資料・IR情報等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。

ペロブスカイト太陽電池関連株を比較|伊勢化学・K&Oエナジー・積水化学、狙うならどこか

 


次世代太陽電池として注目されている「ペロブスカイト太陽電池」。

軽く、薄く、曲げることができるため、従来のシリコン太陽電池では設置が難しかった工場や倉庫の屋根、建物の壁面などへの普及が期待されています。

2026年に入り、実証実験だけでなく実際の事業化も始まり、いよいよ「研究テーマ」から「産業」へ移行する段階に入ってきました。

そこで今回は、ペロブスカイト太陽電池関連銘柄として名前が挙がることの多い、

  • 伊勢化学工業(4107)

  • K&Oエナジーグループ(1663)

  • 積水化学工業(4204)

の3社を比較してみます。

同じ「ペロブスカイト関連」でも、実は3社の立ち位置はかなり違います。

そもそも、なぜヨウ素メーカーが関連銘柄なのか

日本で開発が進むハライド系ペロブスカイト太陽電池では、ヨウ素系材料が重要な原料の一つになります。

ヨウ素は生産できる地域が限られた資源で、日本は世界有数の生産国です。

つまりペロブスカイト太陽電池が本格普及した場合、太陽電池メーカーだけではなく、原材料であるヨウ素を供給する企業にも需要拡大の恩恵が及ぶ可能性があります。

もっとも、すべてのペロブスカイト太陽電池が同じ材料構成になるとは限らず、技術革新によって必要な原料や使用量が変化する可能性はあります。

そこで投資対象として見る場合は、

「太陽電池そのものを作る企業」と「材料を供給する企業」では、利益の出方が違う

という点を意識しておきたいところです。


① 伊勢化学工業(4107)――ペロブスカイト原料への期待なら最も分かりやすい

伊勢化学工業は世界屈指のヨウ素メーカーです。

同社によれば、世界で年間約3万5,800トン生産されるヨウ素のうち、伊勢化学だけで世界生産量の10%強を生産しています。

そして伊勢化学の面白いところは、単純に「ヨウ素を作っているからペロブスカイト関連」という段階から、さらに一歩踏み込んでいることです。

2026年2月には稀産金属と、ペロブスカイト太陽電池向けヨウ素系材料の供給体制強化について基本合意。ヨウ化鉛などの原料調達から製造・販売までの一貫したサプライチェーン構築を目指しています。

これは投資家目線ではかなり重要です。

ペロブスカイト市場が拡大するのをただ待っているのではなく、

「ペロブスカイト向け材料そのものを新しい事業機会として取りにいっている」

からです。

伊勢化学の強み

最大の魅力は、ペロブスカイト太陽電池市場が拡大した際の「テーマ純度」の高さでしょう。

積水化学のような巨大な総合化学メーカーでは、ペロブスカイト事業が伸びても会社全体への影響は薄まります。

伊勢化学はヨウ素事業そのものが会社の中心です。

そのため、ペロブスカイト向けヨウ素材料の需要が本格的に増加した場合、業績へのインパクトが比較的大きくなる可能性があります。

またヨウ素には、X線造影剤、殺菌剤、電子材料など既存需要もあります。

つまり、

既存需要のあるヨウ素事業+ペロブスカイトという新需要

という構図になっています。

伊勢化学の注意点

一方、ペロブスカイト期待が高い分、株価にもテーマ性が反映されやすい銘柄です。

「ペロブスカイトが普及する」というだけでなく、

  • 実際にどのくらいヨウ素需要が増えるのか

  • 1GWあたりどれだけ材料が必要になるのか

  • 材料価格は維持できるのか

  • 技術革新によってヨウ素使用量が減らないか

まで考える必要があります。

つまり、3社の中では最も夢が大きい代わりに、期待先行にもなりやすい銘柄と言えそうです。


② K&Oエナジーグループ(1663)――ヨウ素を持ちながら安定事業もある

K&Oエナジーグループも世界有数のヨウ素生産会社です。

同社グループは世界のヨウ素生産量の約5%を生産しています。

伊勢化学と比較すると世界シェアは小さいものの、それでも単独企業グループで世界供給量の約5%を握っていることを考えると、かなり大きな存在です。

K&Oの特徴は、ヨウ素だけの会社ではないこと。

天然ガスやエネルギー事業を持っているため、ペロブスカイト一本足ではありません。

K&Oの強み

投資対象として考えた場合、この「ペロブスカイトへの純度の低さ」は欠点でもあり、長所でもあります。

ペロブスカイトの普及が予想より遅くても、既存のヨウ素需要や天然ガス事業があります。

ヨウ素自体もペロブスカイト専用品ではなく、造影剤、殺菌・防かび剤、液晶関連など幅広い用途があります。

したがってK&Oは、

「ペロブスカイトだけに賭けるのは怖いが、ヨウ素需要の長期成長には乗りたい」

という投資家には比較的分かりやすい銘柄だと思います。

また同社はヨウ素需要の拡大を見込み、生産設備の拡充も進めています。K&Oヨウ素では、大規模生産設備と小規模・機動的な生産方式を組み合わせ、需要増加に対応する方針を示しています。

K&Oの弱点

一方、ペロブスカイトが大成功した場合の株価インパクトという点では、伊勢化学より薄くなる可能性があります。

ヨウ素の世界シェアは約5%で、会社全体にも天然ガスなど別の事業があります。

つまり、

下値を既存事業が支えやすい代わりに、ペロブスカイト一本で会社が化ける期待も相対的には小さい

という位置づけです。

ペロブスカイト「テーマ株」として見るより、国産資源を持つヨウ素・エネルギー株にペロブスカイトという成長オプションが付いている、と考えた方がしっくりきます。


③ 積水化学工業(4204)――原料ではなく「太陽電池そのもの」を売る会社

伊勢化学とK&Oが原料側なのに対し、積水化学は全く立場が違います。

積水化学は長年フィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発してきましたが、2026年3月、ついに「SOLAFIL」として事業化を開始しました。

2026年度は既存設備による限定生産から始め、2027年度には100MW規模の生産ラインを立ち上げる計画です。

これは大きな変化です。

これまでのペロブスカイト投資は、

「将来実用化されるかもしれない」

という段階でした。

現在の積水化学は、

「実際に製品を供給し、量産へ移行する」

段階に入っています。

積水化学の強み

最大の強みは当然、ペロブスカイト太陽電池そのものを販売できることです。

普及した場合、原材料価格の上昇だけではなく、モジュール販売の売上そのものを取り込めます。

しかも積水化学のSOLAFILはフィルム型。

従来型の太陽光パネルでは重量などの問題で設置できなかった場所を狙っています。

2026年の事業開始では、自治体や高速道路会社などへの製品提供からスタートしており、すでに社会実装段階に入っています。

したがって3社の中では、

ペロブスカイト太陽電池の商用化そのものに最も直接投資できる企業

と言えるでしょう。

積水化学の弱点

問題は、積水化学が巨大企業であることです。

住宅、モビリティ、ライフサイエンス、インフラなど幅広い事業を抱えているため、ペロブスカイトが成長しても、短期的には会社全体への利益貢献が限定される可能性があります。

さらに量産には巨額の投資が必要です。

積水化学は100MW規模の生産設備へ大規模な投資を計画しています。量産に成功し、価格を下げ、補助金に頼らなくても競争できる事業に育てられるかが今後の重要ポイントになります。会社側も100MW段階ではシリコン型よりコストが高いと認識しています。

つまり、

成功すれば産業の主役になれるが、そのために巨額の設備投資と量産化リスクを負っている

という会社です。


3社を比較するとどうなる?

銘柄ペロブスカイトでの立場期待度安定性主な特徴
伊勢化学工業ヨウ素・ヨウ素系材料★★★★★★★★原材料への直接度が高い
K&Oエナジーヨウ素★★★★★★★資源・エネルギー事業との分散
積水化学工業太陽電池メーカー★★★★★★★★★★SOLAFILを実際に事業化

面白いのは、どれが絶対的に優れているという話ではなく、どの段階に投資したいかによって選択が変わることです。

原料価格上昇・ヨウ素需要拡大を狙う

→ 伊勢化学工業

ペロブスカイト向け材料事業まで積極的に取りにいっており、3社の中ではテーマ性が最も強い。

ペロブスカイトも欲しいが既存事業の安定性も欲しい

→ K&Oエナジーグループ

ヨウ素という希少な資源を持ちながら、天然ガスなど他の収益源もある。

ペロブスカイト太陽電池そのものの普及に賭けたい

→ 積水化学工業

すでにフィルム型ペロブスカイト太陽電池の事業化を開始し、2027年度の100MW量産ラインを目指している。


個人的に面白いのは「伊勢化学+積水化学」

この3社を調べていて個人的に面白いと感じるのは、伊勢化学と積水化学では投資している場所がまるで違うことです。

積水化学は「完成品側」。

伊勢化学は「原料側」。

仮に将来、積水化学以外のメーカーも含めてペロブスカイト太陽電池市場そのものが大きくなれば、材料メーカーは複数メーカーの成長をまとめて享受できる可能性があります。

一方、積水化学が独自のフィルム型技術で大きなシェアを獲得すれば、完成品メーカーとしての利益は原材料メーカー以上に大きくなる可能性があります。

これは半導体投資で、

半導体メーカーを買うのか、製造装置・材料メーカーを買うのか

という話に少し似ています。

どこが最終的な勝者になるか分からないなら、サプライチェーンの異なる場所を持つという考え方もできます。


ペロブスカイト関連株で最も注意したいこと

ペロブスカイト太陽電池は魅力的なテーマですが、「国策だから必ず儲かる」と考えるのは危険です。

今後確認したいのは、

  1. 実際の量産コスト

  2. 耐久性

  3. シリコン太陽電池との価格競争

  4. 政府補助終了後にも需要が続くか

  5. 国内メーカーが海外勢との競争に勝てるか

  6. ヨウ素など原材料の使用量が今後どう変化するか

です。

特に投資では、

技術が普及することと、その会社の株主が儲かることは別問題

です。

良い技術でも設備投資が重すぎれば利益は出ません。

市場が巨大になっても競争が激化すれば利益率は下がります。

原材料需要が増えても、それ以上に生産量が増えれば価格は上がりません。

このあたりは冷静に見ておきたいところです。


まとめ

ペロブスカイト太陽電池関連株として3社を比較すると、かなり性格が違います。

伊勢化学工業
→ 原材料への直接度が高く、ペロブスカイト材料にも積極的。テーマ性重視。

K&Oエナジーグループ
→ 世界有数のヨウ素メーカーでありながら、天然ガスなど既存事業もある。安定性重視。

積水化学工業
→ フィルム型ペロブスカイト太陽電池を実際に事業化。完成品市場の成長を直接取りにいく。

個人的には、

「ペロブスカイトが普及した時、誰が一番儲かるのか?」

だけでなく、

「ペロブスカイトが予想ほど普及しなかった時でも、その会社を持ち続けられるか?」

という視点も重要だと思っています。

その意味では、

  • 大きな成長期待なら伊勢化学

  • 資源株としての安定性ならK&O

  • 事業化の本命なら積水化学

という見方ができそうです。

2026年は積水化学がSOLAFILの事業化を開始し、伊勢化学もペロブスカイト材料のサプライチェーン構築へ動き始めました。

「いつか実用化する技術」を買う段階から、「実際に量産が始まった時、どこに利益が落ちるのか」を考える段階へ入ってきたのではないでしょうか。

※本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は各社の最新IRや決算資料を確認したうえで自己責任でお願いします。

2026年8月15日土曜日

5年前にBYDを買おうとしてやめた。あの判断は正しかったのか?


今から5年ほど前。

EVといえばテスラがものすごく注目されていた頃、私は中国の「BYD」という会社に目をつけていました。

「この会社、ひょっとしてかなり伸びるんじゃないか?」

そんなことを考えて株を買おうか調べた記憶があります。

ところがBYDの株は日本株でも米国株でもなく、中国本土では深圳市場、外国人が比較的買いやすい株は香港市場に上場しています。

そこで少し怖くなりました。

当時から中国経済には不安がありましたし、中国という国そのものについても、

「もし国同士の関係が悪化したら?」
「何か規制が入って自由に売買できなくなったら?」

なんてことを考えてしまったのです。

会社そのものは面白そう。

でも会社とは関係ないところで資産を動かせなくなるのは嫌だなあ。

そう思って、結局BYD株を買うのをやめました。

それから5年。BYDはとんでもない会社になっていた

久しぶりにBYDを調べてみると、私が見ていた頃とは会社の規模がまるで違います。

2020年に約40万台だった自動車販売は、2025年には約460万台。

今や世界6位クラスの自動車メーカーにまで成長し、王伝福会長は「5年以内に世界最大の自動車メーカーを目指す」と話しています。

2025年にはEV販売でテスラを上回り、海外展開も急速に進んでいます。2026年前半だけでも海外販売は78万台を超えています。

……やっぱり俺の目の付け所、悪くなかったじゃん。

となるわけですが、ここで株価を確認してみると意外なことが分かりました。

あれ? 株価は思ったほど上がっていない

BYDの香港株(1211)の2026年8月14日の終値は88.25香港ドルでした。

BYDは2025年に株数が実質3倍になる株式調整を行っているので、5年前の200香港ドル台という株価とそのまま比べることはできません。

これを調整して5年前と現在を比較すると、実は株価はほぼ同じような水準。

会社は数年間で、

「中国の有力EVメーカー」

から、

「世界最大を狙う自動車メーカー」

くらいまで成長したのに、株を5年間持っていれば何倍にもなっていた、という話ではありませんでした。

これはかなり意外でした。

「BYDを買わなかった俺は大失敗した!」

という記事になると思って調べ始めたのですが、どうもそう単純ではないようです。

なぜ会社は成長したのに株価が伸びていない?

理由の一つとして考えられるのが、中国の自動車市場の猛烈な価格競争です。

BYDの2025年の売上高は過去最高になった一方、純利益は前年比19%減少しました。

中国国内ではEVメーカー同士の値下げ競争が激しく、BYDの自動車部門の利益率も低下しています。

2026年に入ってからも中国国内の自動車販売は弱く、BYDは国内販売の落ち込みを海外販売の急増で補っている状態です。

2026年1~7月ではBYDの中国国内販売が35%減った一方、海外販売は79%増えています。

つまり今のBYDは、

中国で成長する会社

というより、

中国で作った強いEVを世界中に売る会社

へ変わろうとしている途中なのかもしれません。

そして日本に「ラッコ」が来た

そんなBYDが2026年7月、日本市場にかなり面白いEVを投入しました。

その名も

BYD RACCO(ラッコ)。

まさかの軽自動車です。

しかも日本専用に軽自動車規格で開発されています。

RACCO 200の価格は214万5000円からで、補助金を考慮すると実質200万円を切る価格になります。航続距離は約210km。上位モデルでは約320kmです。

これは結構すごい。

中国で売っている車をそのまま日本へ持ってきたのではなく、日本人が大好きな「背の高い軽自動車」をわざわざ作ってきたわけです。

ラッコは日本で売れるのか?

個人的には、これはちょっと注目しています。

日本では新車販売のかなり大きな割合を軽自動車が占めます。

一方で外国メーカーは、この市場へほとんど入れていません。

そこへBYDが、

・軽自動車サイズ
・スライドドア
・EV
・200万円前後

という、日本市場をかなり研究した商品を持ってきました。

しかも発売後約2週間で約1000台の注文が入ったと報じられています。BYD自身は2026年末までに1万台の受注を目標にしています。

スタートとしては結構面白そうです。

一方、日本ではまだ「中国車を買う」ということに抵抗を感じる人も多いでしょう。

販売店や整備網、中古車価格、長期的なブランド信頼性なども、日本メーカーには及びません。

ここを価格と商品力で突破できるか。

ラッコはその試金石になりそうです。

では今からBYD株を買う?

5年前の私は、

「BYDは面白い。でも中国株なのが怖い」

と思って買いませんでした。

5年後の今改めて見ると、その考えは半分当たり、半分外れだった気がします。

会社を見る目としては、かなり当たっていた。

BYDは本当に世界的な自動車メーカーになりました。

一方で、株価だけを見れば「買わなかったせいで資産が何倍も違った」というほどではありません。

そして今でも、中国株特有の地政学リスクや政策リスクがなくなったわけでもありません。

さらに中国国内では激しい価格競争が続き、2025年には利益が減少しています。

その反面、海外販売は猛烈な勢いで伸びています。

日本ではラッコまで投入してきました。

なので私の今の感想は、

「会社としては5年前よりずっと面白い。でも株として今すぐ飛びつくほど簡単ではない」

です。

むしろラッコが日本で本当に売れるのか。

海外販売が中国国内の落ち込みを補えるのか。

この辺をしばらく観察してからでも遅くない気がします。

5年前に見つけて、怖くなって買わなかったBYD。

まさか5年後、日本の道路を「ラッコ」という名前のBYD車が走り始めるとは思いませんでした。

投資って、こういう「買わなかった株」を後から調べ直すのも結構面白いですね。