2026年9月15日火曜日

アスクル(2678)は復活できるか?ランサムウェア後の決算を「水沢節」で読む

2025年10月、通販大手のアスクルをランサムウェアが襲いました。

ネット通販企業にとって、受注システムと物流は商売の血管のようなものです。その血流が止まり、商品の受注・出荷まで停止する事態となりました。しかも影響はアスクルだけではなく、物流を委託していた企業のネット販売にも波及しました。

あれからおよそ1年。2026年9月15日、アスクルが2027年5月期第1四半期決算を発表しました。

ランサムウェアで大きく傷ついた会社は、どこまで戻ったのか。そして現在の株価には、その復活がどこまで織り込まれているのか。

今回は決算と株価を眺めた後、いつものように易にも問うてみました。

まず、2025年のランサムウェア事件を振り返る

アスクルが異常を検知したのは2025年10月19日。外部からの不正アクセスによってランサムウェアに感染し、同日中にネットワークを遮断しました。

新規注文の受付は停止。受注・出荷業務にも大きな影響が出ました。その後、顧客情報や取引先情報の一部が外部へ流出したことも確認されました。

アスクルは10月23日までに主要な外部クラウドサービスのパスワード変更を行い、10月24日には管理アカウントへの多要素認証などを実施。11月12日には安全性を確認したうえで、一部Web注文を再開しています。

2026年に入ってからも情報漏えいに関する対応は続いており、7月には追加の本人通知も行われています。

一企業のシステム障害というより、アスクルという巨大な物流・EC網そのものが止まった事件だったと言った方が近いでしょう。

※2025年10月、ランサムウェア攻撃直後の状況を伝えたTBS NEWS DIGの報道です。

その結果、2026年5月期は大赤字になった

事件の傷跡は、2026年5月期の数字にはっきり表れています。

項目 2026年5月期
売上高 約4,002億円
営業損益 ▲174億円
経常損益 ▲191億円
最終損益 ▲222億円

前期の2025年5月期には約4,811億円を売り上げ、営業利益も約140億円出していました。

つまり、「元から儲からない会社が赤字になった」のではありません。利益を出していた通販・物流企業が、サイバー攻撃を境に大幅赤字へ転落したわけです。

この違いは大きい。

企業分析では赤字という結果だけではなく、なぜ赤字になったのかを見る必要があります。

そして今回の2027年5月期1Q決算

では、復旧後の新しい年度はどうなったのでしょうか。

2027年5月期第1四半期は、売上高約1,123億円。前年同期比では約8%の減収となりました。

営業損益は約4億円の赤字、経常損益も約4億5,000万円の赤字。前年同期には経常利益約9億円を計上していたので、表面だけ見ればまだ回復したとは言えません。

項目 2027年5月期1Q
売上高 約1,123億円
前年同期比 約8.2%減
営業損益 ▲約4.2億円
経常損益 ▲約4.5億円

これだけを見ると、「まだ赤字じゃないか」となります。

予も、数字だけならそう読みます。

されど、ここで2026年5月期の▲174億円という営業赤字を思い出してみます。会社が生き残れるかを見る段階から、今は「本来の利益率へどこまで戻せるか」を見る段階へ移りつつあります。

会社は通期で営業利益70億円を見込んでいる

アスクルは2027年5月期通期について、売上高4,900億円、営業利益70億円、経常利益63億円、最終利益40億円という計画を掲げています。

つまり会社自身は、1Qの赤字をもって「今年もダメ」とは考えていません。

前期営業損失174億円から、今期営業利益70億円へ。

実現すれば、損益は一年で約244億円改善することになります。

これはかなり大きなV字回復計画です。

予が最も見たいのは売上ではなく利益率

アスクルの場合、売上高だけが戻ればよいという話でもありません。

通販会社は商品を売り、その粗利益から倉庫、人件費、配送費、システム費などを支払います。1,000億円売っても利益がほとんど残らなければ、株主にとってはあまり意味がありません。

今回の1Qでは売上総利益率も前年同期より低下しています。

ここから先を見るなら、予は三つに絞ります。

  • 売上高が事件前の水準へ戻っていくか
  • 営業損益が2Q以降で黒字へ戻るか
  • 売上総利益率が改善するか

この三つです。

特に営業利益でしょうな。

売上が戻っているのに利益が戻らないのであれば、サイバー攻撃とは別の問題が残っていることになります。逆に利益率まで戻ってくれば、「一時的な大事故からの復旧だった」という見方が強くなります。

アスクルには本来の稼ぐ力があるのか

ここで事件前の数字へ戻ります。

2025年5月期には営業利益約140億円を稼いでいました。

予には、この数字が重要に見えます。

現在の通期営業利益計画は70億円ですから、会社はまだ事件前の利益水準へ完全に戻るとは予想していません。言い換えれば、今期70億円を達成しても、それで完全復活というわけではない。

140億円を出せていた会社が、まず70億円まで戻る。

その先に100億円、140億円と戻れるのか。

もし戻れるなら、現在の業績だけを見て会社の価値を判断するのは早いかもしれません。

ランサムウェア事件は「一過性」で片づけてよいのか

ここは少し慎重に考えたいところです。

工場が台風で一週間止まり、その後完全復旧したという話なら、一過性損失として比較的切り分けやすい。

サイバー攻撃は違います。

システム改修費用、セキュリティ強化費用、顧客対応、ブランドへの影響、取引先との関係、失った注文。その影響がどこまで残っているのか、外から完全に把握することは容易ではありません。

一方、アスクル側も事件後に認証情報のリセット、管理アカウントへの多要素認証、EDRの更新などを進めています。

事故そのものは悪材料です。

されど、その事故によって以前より強い仕組みを作れるなら、数年後から見た景色はまた変わります。

株価はどこまで戻ったのか

株価も確認してみましょう。

2026年のアスクル株は、1月に1,435円まで上昇した一方、3月には1,051円まで下落しています。9月14日の終値は1,229円でした。

つまり年初来安値からは戻っているものの、年初来高値にはまだ届いていません。

市場も「もう完全復活した」と強気一辺倒になっているわけではなさそうです。

9月14日時点で予想PERは約27倍、PBRは約2.3倍。数字だけ見れば、「ランサムウェアで暴落して何もかも安くなった銘柄」という感じではありません。

むしろ、今期の黒字転換をある程度期待した値段が付いている、と考えた方が自然でしょう。

安い株なのか、それとも復活を先取りしているのか

ここがアスクルを見るうえで面白いところです。

事件前には営業利益140億円程度を出していた会社です。今期計画は70億円。その利益が数年かけて元へ戻るなら、現在の業績だけを使ったPERには違った見え方が出てきます。

反対に、70億円すら達成できず、利益率も低迷したままなら、現在の株価は決して安いとは言えません。

つまり今アスクル株を評価するには、単純なPERだけでは足りません。

「本来どれくらい稼げる会社なのか」

そこを考える必要があります。

予なら次の決算でここを見る

次回決算で営業黒字へ転じているか。

これがまず一つ。

次に、売上総利益率。そして通期営業利益70億円に対する進捗率です。

1Qが赤字だった以上、70億円を達成するには2Q以降で利益をかなり積み上げなければなりません。

もし2Qで利益回復が明確になれば、市場は「アスクルが戻ってきた」と見始めるでしょう。

逆に2Qでも利益が低迷するなら、通期計画への疑問が強くなります。

今回の1Qは、結論を出す決算というより、復旧過程を確認する決算と見る方がよさそうです。

そこで易に問うてみた

さて。

数字だけ眺めて終わっては、マスターJではありません。

今回のアスクルについて易に問うてみました。

出た卦は――

水沢節(すいたくせつ)。

しかも変爻なし。

「節」とは、区切ること。限度を設けること。節度を守ることです。

勢いに任せ、どこまでも進めばよいという卦ではありません。

必要なところで線を引き、自分の限界を知り、整える。

今回出た簡易判定も「慎重寄り」でした。

ふむ。

ランサムウェアで大きく傷つき、現在は復旧途上。1Qはまだ赤字。通期では大幅な黒字転換を目指している。

今のアスクルへ「もう大丈夫じゃ、買え買え」と言うよりも、利益が実際に戻るところを確認せよ――そう読めなくもありませんな。

しかも変爻がない

易では爻が変化すると、そこから別の卦へ移ります。

今回はそれがありません。

予なら、この「変化なし」を、今は無理に未来へ話を飛ばさず、現在の状態そのものをよく見よという読み方をしてみます。

完全復活でもない。

破綻でもない。

回復の途中にいる。

売上が戻るか。

利益が戻るか。

顧客が戻るか。

通期計画を守れるか。

今ある事実を、一つずつ確かめる。

まこと「節」という字が似合います。

そして老子はこう言う

知足不辱、知止不殆。

足るを知れば辱められず、止まるを知れば危うからず。

欲を出しすぎず、限度を知る。

これは企業経営にも、投資にも通じる言葉でしょう。

アスクル自身も、事故から一気に何もかも元へ戻そうとすれば、また無理が生じるかもしれません。システムを直し、物流を戻し、顧客を戻し、利益を戻す。順番に積み上げるしかありません。

投資する側も同じです。

「昔140億円稼いでいたのだから、すぐ戻るだろう」と先走ることもできる。

「1Q赤字だからもう終わりだ」と切り捨てることもできる。

予には、どちらも少し急いでいるように見えます。

水沢節――水を溜めるには堤がいる

水沢節の「節」は、水を無制限に流すのではなく、区切りを作る姿として見ることもできます。

水は流れる。

されど、流すだけなら散ってしまう。

堤があるから水は溜まり、必要なところへ使うことができます。

会社も同じなのかもしれません。

売上だけを増やせばよいのではない。

利益を残す。

守るべき情報を守る。

物流を止めない。

そして無理なところでは止まる。

ランサムウェアという大きな事故を経験したアスクルに、今回「節」が出たというのは、偶然ながらなかなか味わい深いものがあります。

アスクルは復活できるのか

現時点で予の答えは、まだ分からぬ、です。

2027年5月期1Qは赤字。これだけなら強気にはなれません。

一方で、事件前には年間140億円前後の営業利益を出していた会社であり、今期は70億円への黒字転換を計画しています。

売上が戻り、粗利益率が改善し、2Q以降で営業黒字が積み上がるなら、復活物語は現実味を増してきます。

そして戻らなければ、それもまた数字が教えてくれる。

ゆえに今は急がず、見る。

水沢節。

知足不辱、知止不殆。

足るところを知り、止まるところを知る。

さてアスクルは、この大きな傷を越えて再び流れ始めることができるのか。

次の決算まで、しばし水面を眺めるとしましょうかのう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。


※本記事は公開されている企業情報、決算資料、株価情報等をもとに筆者が企業を考察したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

※易経および老子を用いた部分は、投資判断を保証する占いではなく、企業や相場について考えるための思想的・娯楽的な試みです。

水は低きに流れる――日銀利上げをマスターJが眺めてみる

また金利の話が騒がしくなってきました。日本銀行は9月17日から18日に金融政策決定会合を開く予定で、市場では現在およそ1.00%の政策金利を1.25%へ、0.25ポイント引き上げるとの見方が中心になっています。

一方、その直前に開かれる米国のFOMCでも利上げ観測が強まっています。日本が0.25ポイント上げても、日米の金利差はなお大きく残る可能性があります。

金にも流れがある

水は高きところから低きところへ流れます。誰かが命令するからではなく、傾きがあるから流れる。

金もまた、まったく同じではないにせよ、流れやすい方向があります。金利が高ければ、それだけ金を置くことで得られるものも大きくなります。

もちろん為替は金利差だけで決まるものではありません。景気、物価、貿易、財政、政治、市場心理。さまざまな水が合流して、一つの大きな川になります。

それでも金利差は、その川底についた一つの傾斜ではあります。

日銀はまた0.25ポイントか

市場では今回も、日銀が政策金利を0.25ポイント引き上げて1.25%とする見方が強まっています。

2026年6月にも日銀は0.75%から1.00%へ0.25ポイント引き上げました。当時も、日本の政策金利は他国と比べればなお低い水準にあり、円キャリー取引への影響などが注目されました。

今回も0.25ポイントとなれば、日本の政策金利は1.25%。一方で米国の金利は依然として日本よりかなり高い水準にあります。

さて、この程度の傾斜の変化で、水の流れはどこまで変わるのでしょうな。

利上げすれば円高になるのか

利上げと聞けば、一般には円高材料と考えられます。金利差が縮まれば、円を売って高金利通貨へ向かっていた資金の流れが弱まる可能性があるからです。

されど相場というものは、そう簡単ではありません。市場がすでに利上げを織り込んでいれば、実際に発表された瞬間にはほとんど動かないこともあります。

逆に、政策金利そのものより「この先どこまで上げるつもりなのか」という一言の方が大きく効くこともあります。

市場が見ているのは、今日落ちた一滴だけではありません。その先に続く川です。

金利が動けば株も動く

利上げは為替だけの話でもありません。金利が上がれば、企業の借入コスト、住宅ローン、預金、債券、そして株式市場にも影響します。

一般には、金利上昇は将来の利益を高く評価されている成長株には向かい風となりやすく、銀行など金利上昇が利益につながりやすい業種には追い風になる場合があります。

もっとも、それも毎回教科書どおりに動くとは限りません。金利上昇を見越して銀行株を買った頃には、その材料がすでに株価へ織り込まれていることもあります。

ゆえに予は、「利上げだから何を買え」とは申しません。ただ水面を見るだけです。

水は低きに流れる

水は低きに流れます。されど川には岩もあり、堰もあり、支流もある。雨が降れば、流れそのものが変わることもあります。

金の流れもまた、似たようなものなのでしょう。

大方の予想より低い0.25%の利上げとなるようじゃ。

水は低きに流れるというが、どうなることかのう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本記事は金融政策や市場について筆者の考えをまとめたものであり、将来の為替・株価を予測または保証するものではありません。

2026年9月4日金曜日

三井物産(8031)を2010年に買った予が、2026年の決算をもう一度読む――「多ければ則ち惑う」

 


2010年。

予が株式投資を始めた頃、投資候補はいくつもありました。

その中で実際に資金を投じた会社の一つが、**三井物産(8031)**です。

当時の三井物産の株価を、現在と比較できるよう2024年の1対2株式分割を調整した数字で見ると、

  • 2010年始値 661円

  • 年間高値 832円

  • 年間安値 497円

  • 年末終値 670円

でした。

株式分割前の当時の画面で見えていた株価に直せば、おおむね1,000~1,600円台です。

そして2026年9月4日の終値は、

5,019円。

2010年末の分割調整後670円と比べると、約7.5倍です。2010年の年間高値832円から見ても約6倍、安値497円なら約10倍になります。

もちろん予が2010年の底値を完璧に買った、などという話ではありません。

重要なのはそこではない。

十数年前に買った会社が、今なお日本を代表する企業として残り、株価も企業価値も大きく変わった。

では2026年現在、この会社にはまだ「理」があるのか。

最新決算から見てみましょう。

最新決算――第1四半期利益は過去最高

三井物産が2026年8月4日に発表した2027年3月期第1四半期決算。

親会社株主に帰属する四半期利益は、

2,941億円。

前年同期の1,916億円から、

1,025億円、約53%増。

第1四半期としては過去最高となりました。

基礎営業キャッシュ・フローも、

2,163億円 → 2,809億円

と646億円増えています。

会社の2027年3月期通期計画は、

  • 当期利益 9,200億円

  • 基礎営業キャッシュ・フロー 1兆500億円

です。

まだ第1四半期なのに、利益はすでに年間計画の32%、基礎営業キャッシュ・フローも**27%**まで進んでいます。

単純に4倍して「年間1兆1,764億円だ!」などと考えるのは早計です。

今回の利益には資産リサイクル益や企業価値評価に伴う利益も含まれているからです。

それでも、出足がかなり良いこと自体は間違いありません。

三井物産はもう「資源だけの会社」ではない

総合商社というと、

「鉄鉱石」
「石油」
「LNG」

というイメージが強い。

三井物産も依然として資源・エネルギーの巨大な権益を持っています。

今回の第1四半期利益を見ると、

  • 金属資源 612億円

  • エネルギー 344億円

  • モビリティ・デジタル・インフラ 730億円

  • 化学品 266億円

  • ウェルネスエコシステム 184億円

  • イノベーション&コーポレートディベロップメント 652億円

となっています。

ここが現在の三井物産を見るうえで面白いところです。

金属資源だけで食っている会社ではありません。

モビリティ、デジタルインフラ、化学品、医療・健康分野、事業投資、エネルギー。

利益を生む水源がかなり多い。

もちろん資源価格が動けば利益も大きく動きます。

しかし一つの井戸が枯れたら終わる会社ではなくなっている。

巨大商社とは、世界中に何本もの水路を引き、その時々で流れの強い場所から水を集める存在とも言えます。

むしろエネルギーはこれから寄与する

第1四半期のエネルギー部門の利益進捗率は**17%**にとどまっています。

一見すると悪い。

ところが会社自身は、

「エネルギーは第2四半期以降に本格的な貢献を見込む」

と説明しています。

年間計画2,000億円に対して、第1四半期は344億円。

ここが予定どおり後半へ向かって伸びてくるなら、ほかの部門ですでに高い進捗を出していることも合わせ、年間9,200億円という利益計画は十分射程に入っているように予には見えます。

むしろ今後見るべきなのは、

「9,200億円を達成できるか」より、「どこまで上振れ余地が残っているか」

ではないでしょうか。

とはいえ第1四半期の数字をそのまま信じてはいけない

ここで水面を静かにしておきます。

今回、非常に進捗率が高い部門があります。

イノベーション&コーポレートディベロップメントです。

年間利益計画700億円に対して、第1四半期だけで652億円

進捗率はなんと93%

これだけ見ると、とてつもない成長事業に見えます。

実際には資産リサイクル益などが大きく寄与しています。

つまり、

2,941億円という第1四半期利益のすべてが毎四半期繰り返されるわけではない。

ここは分けて考える必要があります。

一方で、会社全体として基礎営業キャッシュ・フローが2,809億円まで伸びている。

利益だけではなく、事業から金を生み出す力も強い。

予はこちらの方を重く見ます。

2,000億円の自社株買い

そして三井物産は今回、

上限2,000億円の自己株式取得

を発表しました。

取得期間は2026年8月5日から2027年1月29日まで。

取得した株式は、その後すべて消却する予定です。

さらに年間配当予想は、

1株140円。

2026年3月期の115円から25円増える計画です。

会社は中期経営計画2029の期間中、140円以上を基準とする累進配当を掲げています。

基礎営業キャッシュ・フローに対する株主還元割合の目標も、50%超へ引き上げました。

2021年3月期の分割調整後配当42.5円から、2027年3月期予想140円。

会社資料によれば、この間の配当の年平均成長率は**22%**です。

昔の三井物産と、今の三井物産。

同じ8031でも、株主への金の返し方はかなり変わったと感じます。

今の5,000円は高いのか

2026年9月4日の終値5,019円。

会社予想EPSは約324.6円なので、予想PERはおよそ15倍台

PBRもおおむね1.6倍前後です。

2010年の株価から見れば、とんでもなく上がっています。

だからといって、

「昔670円だった株が5,000円だから高い」

とは言えません。

株価だけが7倍になったわけではないからです。

事業規模も利益水準も株主還元も、当時とは別物になっています。

逆に、昔安かったという理由だけで今も割安だとも言えません。

見るべきものは過去の値札ではない。

現在の会社が、現在の5,000円という値段に見合うだけの金を将来生み出せるか。

そこです。

予はこの先をどう見るか

予の見立てでは、今後1~数年の三井物産はかなり面白い位置にいます。

第一に、今期9,200億円の利益計画に対して第1四半期32%という好進捗。

第二に、第1四半期ではまだ利益進捗17%にとどまるエネルギー事業について、会社は第2四半期以降の本格寄与を見込んでいる。

第三に、過去に行った成長投資の中から、天然ガス、LNG、鉄鉱石、デジタルインフラ、モビリティなど複数の案件が今後順次収益へ貢献する計画になっています。

第四に、強いキャッシュ創出を背景として、累進配当と自社株買いを同時に進めている。

この組み合わせなら、現在の年間利益9,200億円近辺を一つの土台として、次の利益水準へ進む可能性はあります。

予なら現時点では、

「今期計画は達成圏。資源市況が大きく崩れず、予定しているエネルギー案件が寄与すれば上振れの余地もある」

と読みます。

一方、三井物産は世界中に事業を持つ会社です。

鉄鉱石、銅、原油、天然ガスなどの商品価格。

為替。

各国の景気。

金利。

地政学。

投資先企業の価値。

あまりにも多くのものが利益へ影響します。

そして、ここで老子です。

「多ければ則ち惑う」

『老子』第二十二章に、

「少則得、多則惑」

という言葉があります。

日本語で読めば、

「少なければ則ち得、多ければ則ち惑う」

です。

多くのものを求めすぎれば、かえって迷う。

これは投資にもそのまま当てはまるように思います。

2010年の予の前にも、買えそうな株はいくつもありました。

あの株も欲しい。

この株も面白い。

こっちも上がりそうだ。

しかし財布は有限です。

結局、その中から三井物産という一つを選びました。

今なら毎日、何千という銘柄の株価が見える。

SNSを開けば、

「次はこれだ」

「この株が10倍になる」

「今買わないと間に合わない」

そんな情報が際限なく流れてきます。

全部を追えば、かえって何も見えなくなる。

そして三井物産自身もまた、世界中に無数の投資機会を持ちながら、会社資料では何度も**「投資規律」「厳選」**という考えを掲げています。

金があるから何でも買うのではない。

機会が多いから全部取るのでもない。

選ぶ。

捨てる。

一つを抱く。

投資する者にも、投資される企業にも、同じ理があるのかもしれません。

2010年から十数年。

三井物産の株価は、分割調整後670円前後から5,000円台まで来ました。

それでも最新決算を見る限り、会社そのものはまだ止まってはいません。

新しい事業へ金を流し、

古い資産を入れ替え、

稼いだ金を株主へ返し、

また次の収益源を作ろうとしている。

では、次にどの株を買うのか。

どのテーマを追うのか。

どの情報を信じるのか。

相場には誘惑が多すぎます。

ゆえに最後は、この言葉に戻るとしましょう。

少なければ則ち得。

多ければ則ち惑う。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本記事は筆者の投資経験および公開資料を基にした企業分析・考察です。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

2026年9月1日火曜日

パーク24(4666)を2010年から見ていた予が、2026年3Q決算をあらためて読む


2010年ごろ、予はパーク24(4666)という会社を投資候補として見ていました。

きっかけは非常に単純です。

当時、日常の中でタイムズのカーシェアを目にする機会がありました。

予はそれを見て、

「これは合理的な商売ではないか」

と思ったのです。

電車で通勤して、車を使うのは休日くらい。

そのためだけに車を所有すれば、

車両代、駐車場代、車検、税金、保険、整備費。

乗っていない時間にも金がかかります。

それなら必要な時だけ車を借りればよい。

今では珍しくない考え方ですが、2010年当時の予には、カーシェアという仕組みそのものがかなり新鮮に映りました。

2010年のパーク24株は800~1000円前後だった

実際に2010年の株価を振り返ると、

  • 年初値:999円

  • 年間高値:1,068円

  • 年間安値:756円

  • 年末終値:869円

でした。

翌2011年も年間安値695円、高値1,040円、年末1,022円です。

そして2026年9月1日の終値は2,076円。

単純比較なら、2010年末869円から約2.4倍になっています。

では予は2010年に買ったのか。

買っていません。

良いと思った株を全部買えるわけではない

買わなかった最大の理由は、もっと単純です。

ほかの株を買ったからです。

投資資金には限りがあります。

面白そうな会社を10社見つけても、10社すべてを買えるとは限りません。

当時の予にはカーシェアの将来性が面白く見えました。

一方で、利用料金は決して安く感じませんでしたし、まだ広く社会へ浸透する商売なのかも分からなかった。

そして最終的には、限られた資金を別の銘柄へ振り向けました。

今になってパーク24が上がったからといって、

「あの時買っておけばよかった」

と考える必要はないと思っています。

当時選んだ別の株も、その後上昇しました。

すべての良い波には乗れません。

これは投資を長く続けていると、嫌でも分かってくることです。

では十数年経った現在、パーク24はどんな会社になったのか。

ちょうど2026年8月31日に第3四半期決算が発表されたので、あらためて見てみます。

2026年3Qは売上より利益の伸びが目立つ

2026年10月期第3四半期累計は、

  • 売上高:3,040億円 前年同期比2.7%増

  • 営業利益:289億円 同16.2%増

  • 経常利益:267億円 同20.0%増

  • 純利益:364億円 同265.1%増

となりました。

予がまず見るのは、純利益3.6倍という派手な数字ではありません。

純利益の急増には、英国事業再編などに伴う税効果が大きく影響しています。

それより面白いのは、

売上高は2.7%しか増えていないのに、営業利益は16.2%、経常利益は20.0%伸びている

ことです。

つまり、単に事業規模が膨らんでいるだけではなく、利益の出し方が改善している。

ここは素直に評価したいところです。

2010年に見たカーシェアは、今や会社の柱になった

予が2010年ごろに面白いと思っていたカーシェアは、現在「モビリティ事業」という大きな事業になっています。

パーク24のモビリティ事業とは、タイムズカーなどを中心としたカーシェア・レンタカー事業です。

会社の中期計画でも、モビリティ事業は利益成長を牽引する事業として位置づけられています。

2026年10月期計画では、

売上高1,488億円、事業利益184億円

を見込んでいます。

さらに2026年8月には、タイムズカーの会員数が400万人を突破しました。

2010年に予が見ていたのは、

「自分で車を持たなくても、必要な時だけ借りればよいのではないか」

という単純な仕組みでした。

十数年後、それが数百万人規模のサービスになっている。

ここはなかなか面白いものがあります。

駐車場の会社から「移動の会社」へ

パーク24という名前からは、どうしても時間貸し駐車場の会社という印象を持ちます。

しかし現在は少し違います。

駐車場がある。

そこに車がある。

会員がスマートフォンなどから車を予約する。

必要な時だけ乗る。

そして戻す。

つまり会社が押さえているのは、

「駐車する場所」だけではなく「人が移動する仕組み」

です。

予が2010年に感じたカーシェアの魅力も、突き詰めればここだったのでしょう。

人は車そのものが欲しいのではない。

目的地へ移動したい。

ならば「所有」という形を取る必要はない人もいる。

水が器に合わせて姿を変えるように、人間の移動手段も時代によって形を変えます。

一方で、成長には金もかかる

今回の決算を見て、

「全部良い」

で終わるつもりもありません。

カーシェア事業は車両を増やさなければなりません。

パーク24自身も2026年度について、単純に増車を続けるのではなく、増車ペースを緩めながら会員獲得や1台あたりの収益改善を進める方針を示しています。

これは逆に言えば、

車を増やせば自動的に儲かる商売ではない

ということでもあります。

車両は買えば終わりではありません。

減価償却もある。

整備もある。

事故もある。

利用率が悪ければ、車はただ置かれている資産になります。

だから今後は、

「会員数が何人増えたか」

だけではなく、

1台の車からどれだけ利益を生み出せるか

を見る必要があります。

会社もそこを課題として認識しています。

海外事業は縮めて利益を残す方向へ

海外事業も興味深いところです。

パーク24は海外駐車場事業の再編を進めています。

会社の中期計画では、モビリティ事業と海外事業を今後の利益成長を牽引する分野として位置づけています。

今回の決算では英国事業再編の影響が純利益にも大きく出ました。

ここは単純に、

「海外売上が大きければよい」

という話ではありません。

余分な荷物を降ろして利益を残せる会社へ変われるか。

その方が予には重要に見えます。

易経に問うてみた

さて。

せっかくなので、今回も易に問うてみました。

出た卦は、

地水師(ちすいし)

そして第四爻が変じ、

雷水解(らいすいかい)

となりました。

「師」は軍勢を表します。

兵がいるだけでは軍にはなりません。

人を集め、配置し、統率し、一つの目的へ向かわせる。

予には、今のパーク24が少しこの「師」に重なって見えます。

駐車場。

カーシェア車両。

会員。

アプリ。

決済。

それぞれ単独ならただの点です。

それらを全国に配置し、一つの移動網として組織する。

点を集めて陣を作る。

パーク24の強さは、そこにあるのかもしれません。

そして変爻となった第四爻には、

「師左次、无咎」

という言葉があります。

無理に進撃せず、いったん陣を移して整えるなら咎なし。

予は今回、これをかなり面白く感じました。

パーク24は今、ただ台数を増やすことだけを目指しているわけではありません。

カーシェアの増車ペースを調整し、1台あたりの収益改善へ軸足を移そうとしています。

海外でも事業再編を進めています。

前へ前へと兵を出すのではなく、

一度陣形を整える。

偶然とはいえ、会社の現状に妙に重なる卦です。

そして之卦は「解」。

解く。

ほどく。

困難から解放される。

重荷を降ろす。

海外事業の再編や収益構造の改善まで考えると、これまた興味深い。

もちろん易が会社の未来を保証してくれるわけではありません。

当たるも八卦、当たらぬも八卦。

それでも、企業を見るための別の角度として楽しむには、なかなか面白い卦が出ました。

十数年経った今、もう一度見るパーク24

2010年。

パーク24の株価は年間756円から1,068円の範囲で動いていました。

予はその頃、カーシェアという新しい仕組みを見て、

「これは伸びるのではないか」

と考えました。

しかし株は買わなかった。

ほかの波を選んだからです。

そして2026年。

株価は2,000円前後。

カーシェア会員は400万人を超え、モビリティ事業は会社を支える大きな柱へ育ちました。

今回の3Q決算も、売上高2.7%増に対して営業利益16.2%増、経常利益20.0%増。

少なくとも、利益面では悪くない流れです。

もちろん、この先も成長が続くかは分かりません。

カーシェアには車両投資が必要です。

利用率も重要です。

海外再編が本当に実を結ぶかも、これからです。

それでも――

十数年前に予が面白いと思った商売が、ここまで大きくなった。

そして今の決算をあらためて眺めても、まだ先を見てみたくなる部分がある。

十年以上経った今でも、パーク24はなかなか妙味のある株と言えんこともないかのう。

ふぉっふぉっふぉっふぉっ。

※本ブログにおける易経の解釈は、投資を考えるための思想的・娯楽的な試みです。将来の株価を保証するものではありません。

※本記事は企業分析および筆者個人の経験・考え方をまとめたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。